米国、オゾン層破壊物質・臭化メチル禁止の広範な例外を求める

農業情報研究所(WAPIC)

03.11.12

 10日からケニア・ナイロビで、オゾン層破壊物質の一つとされる臭化メチルとオゾン層保護に関するモントリオール議定書の他の諸側面に関する世界180ヵ国の会合が開かれているが、米国政府が2005年に全廃すると約束された臭化メチルの広範な「エッセンシャルユース」を認めるように要求している。エッセンシャルユースはモントリオール議定書が全廃の例外として認めたもので、他の代替手段がなく、必要不可欠とみなされる用途に限って認められる使用である。

 米国政府の要求は、臭化メチルによる土壌消毒なくしてはイチゴ、トマト、その他の作物は作れないし、代替手段はテストされていないか、非常に高価だと主張する当局者や農民―特にフロリダやカリフォルニアの―の声を受け入れたものだ。切花、スモークハム、蜂蜜などの生産における継続使用も要求している。農民は、低賃金国の農業と競争するためには臭化メチルが不可欠だという。政府の支持を求める業界団体は、臭化メチルはオゾン層にとって重大な脅威ではないし、オゾン層は既に回復しつつあると主張している。

 しかし、このような主張の根拠は極めて薄弱だし、このような広範な例外を認めれば、オゾン層保護の20年の努力に水を差すことになる。それはオゾン層回復傾向を逆転する可能性があるし、2010年まで廃止を免除されている途上国にも追随を許すことにことになるだろう。先進国の臭化メチル使用削減が始まった1999年、世界全体で毎年7万2,000dの臭化メチルが使われていたというが、そのうち3分の1近い2万5,000dが米国での使用であった。他の先進国も「エッセンシャルユース」を求めており、それらすべてを合わせて6,000万dになるというが、米国の要求が認められれば、それだけで1万dになる。経済成長に有害だからと、二酸化炭素の最大の排出国でありながら温暖化ガス排出抑制のための京都議定書を拒んでいるのとまったく同様な米国の「一国主義」が、この問題をめぐってもはっきりしたわけだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙によれば(*)、EUのマルゴット・ヴァルストレム環境担当委員は、「世界の多くの農民は臭化メチルなしで作物を育てるのに成功している。その使用の大部分について代替手段が利用できる。臭化メチルの例外は代替手段がない場合に限るべきだ」と言っている。しかし、ホワイト・ハウスの環境担当「トップ」は、例外申請を慎重に審査、安全と農業・食料産品の確保には、これだけの例外が不可欠と判断したと言う。10月29日に米国議会下院で採択された法案は、モントリオール議定書締約国が拒否しても、環境保護庁(EPA)に臭化メチルの例外使用を許す権限を与えた。京都議定書は批准を拒否したのだから、遵守する義務はない。しかし、モントリオール議定書は米国も批准している。それさえ反故にするとすれば、もはや米国が行う国際約束など何一つ信用できないことになる。

 世界は、あらゆる国際問題について、交渉による解決の手段を失いつつあるようだ。

 *At Meetings,U.S. to Seek for Broad Ozone Exemptions,11.10.

農業情報研究所(WAPIC)

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