地球温暖化は100万種の陸上動植物種を殺す―新研究

農業情報研究所(WAPIC)

04.1.9

 気候変動(地球温暖化)は2050年までに陸棲動植物種の4分の1に相当する100万種を絶滅に駆り立てる恐れがある。英国リーズ大学の生物学者・クリス・トーマス教授率いる研究チームが、このように示唆する研究結果を「ネイチャー」誌最新号に発表した(*)。

 研究チームは、地球の陸地の20%を占める六つの生物多様性に富む地域(ヨーロッパ、南アフリカ、オーストラリア、ブラジル、メキシコ、コスタリカ)に棲息する1,103種の植物・哺乳動物・小鳥・爬虫類・蝶その他の昆虫を研究した。従来は温暖化の個別の種への影響が研究されてきたが、この研究は今までで最も包括的な分析であるとともに、温暖化する世界でこれらの種がどこへ移動する可能性があるかもシミュレートしている。気候変動に関しては、2050年までに地球の平均気温が0.5℃から3℃までの間で上昇するという気候変動政府間パネルの予測の最小限、中間、最大限の三つのシナリオが用いられた。

 分析結果によれば、現実にはありそうもない最小限の気候変動とすべての種が新たな地域に移動するという最善のシナリオでも9%の種が絶滅に直面、平均すれば15%から37%(中央値24%)が2050年までに絶滅する恐れがある。この分析結果が世界全体に拡張適用できるとすれば、100万種が絶滅の脅威に曝されることになると推定される。一部の種には気候的に適応可能な生息地が残されず、適応可能な場所に移動できない種もある。移動が可能な種が棲息できる場所の範囲も狭まる。食料資源と増殖能力は減り、あるものは熱暑や干ばつから直接の脅威を受ける。

 ただし、この予測は、楽観的にすぎるともいう。既にこれらの種を絶滅や危機的状態に追い込んでいる生息地破壊・外来種の侵略・人間による過剰な開発などの要因は計算に入れられていないからだ。気候変動とこれらの要因が重なり合えば、事態は一層深刻化する恐れがあるという。

 一部具体例は以下のようなものである。

 ・オーストラリアの蝶400種のうち、この大陸に固有な200種は、3種を残して現在の生息地では生き残れず、半分以上は絶滅する。

 ・ブラジルに固有のサバンナ草地・セラードでは、土着種の45%(約2000種)が絶滅の危機に直面する。

 ・ヨーロッパでは、気候変動の最悪なシナリオのもとでは、25%の小鳥が絶滅する。

 ・メキシコのチチワ砂漠では、脅威に曝された種が涼しいところに達するには長い距離を移動しなければならないために、絶滅の危険性は特に高い。

 ・南アフリカのケープ草花地域では、南アフリカの国花であるキング・プロテアを含む草花の一族・ヤマモガシ科植物の30%から40%が絶滅する。

 ・コスタリカのメンテベルデ熱帯雲森林では、気温上昇により雲の発生場所の高度が上がり、雲の形成自体がなくなってしまう可能性さえある。

 このような生物種の絶滅は、人間にとっても大きな脅威であることに注意すべきである。BBC News(Climate risk 'to million species',1.7)によれば、国連環境計画(UNEP)のクラウス・トッファー博士は、「100万種が絶滅することになれば、・・・損害を受けるのは植物・動物王国と地球の美しさだけではない」、「特に途上国の、数十億の人々も、食料、シェルター、医薬品などの必需品と不可欠のサービスを自然に頼っているのだから、損害をこうむる」と言う。これは、まさに人類の問題でもある。

 研究者たちは、「中間や最大限ではなく、最小限の気候変動を実現するために、温暖化ガスの排出を最小限にし、炭素を封鎖することで、予想される温暖化は地球の生物種の大きな部分を絶滅から救うことができる」と、温暖化防止策の緊急の必要性を強調している。

 *CHRIS D. THOMAS etal.,Extinction risk from climate change,Nature 427, 145?148 (2004).

農業情報研究所(WAPIC)

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