EU、中国との気候変動パートナーシップに合意 京都議定書後温暖化対策に関する議論をにらむ

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.6

 EU(欧州連合)と中国が9月2日、気候変動に関するパートナーシップに合意した。この合意は、9月5日に北京で開催された第8回中国−EUサミットの主要成果の一つをなすものである。パートナーシップの主要目的は二酸化炭素(CO2 )の捕獲と地下貯蔵に基づく”ゼロエミッション”(排出ゼロ)石炭技術の開発と実証という。また、クリーンエネルギー技術の開発やエネルギー効率改善、エネルギー保存、更新可能なエネルギーを促進する。

European Commission,EU and China Partnership on Climate Change,9.2
http://europa.eu.int/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/05/298&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en)。

 このパートナーシップには、2020年までに達成されるべき二つの具体的協力目標が含まれる。

 第一は、先進的な”ゼロエミッション”石炭技術を中国とEUの両方で開発、実証することである。この技術は、石炭火力発電所から排出されるCO2 の捕獲を可能にし、捕獲されたCO2 を、例えば利用済の石油またはガス田や密封された地層の地下に貯蔵する。これによって、CO2 の大気中への放出を回避する。

 第二は、基本的エネルギー技術のコストを大きく削減し、その効果的利用と普及を促進する。

 また、それぞれの経済のエネルギー集約度国内総生産・GDP 1 単位当たりのエネルギー消費量)を削減するEUと中国の努力も支援する。中国は、中国経済のエネルギー集約度を2020年までに半減させる目標を立てた。欧州委員会は、6月に採択されたエネルギー効率に関する”緑書”で、エネルギー効率の増強により同じ期間にエネルギー消費を20%削減することを提案している(http://europa.eu.int/comm/energy/efficiency/doc/2005_06_green_paper_text_en.pdf)。これらの努力を、民間部門の参加、二国間・多国間財政手段と輸出信用機関、ジョイントベンチャーや官民提携を通じて強化する。

 さらに、京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)に関するEU−中国の協力も強化する。これは、情報交換とEUの排出権取引計画などの市場ベースのメカニズムの利用に関する経験を結合した2012年以後のこのメカニズムの一層の開発に関する対話や、気候変動の影響に関する多くの共同研究活動を見込む。

 この合意に関する中国・EUの共同声明の内容は次のとおり。

 ・我々は、国連気候変動枠組条約と京都議定書の目標と原則に対する我々の約束を強調、それを背景に気候変動に関するパートナーシップの立ち上げに合意する。このパートナーシップは、クリーンエネルギーを含む気候変動に関する協力と対話を強化し、また持続可能な発展を促進する。パートナーシップのフォローアップは、中国−EUサミットも含む二国間協議を通して、問題に応じた適度のレベルで定期的に実施される。

 ・我々は、気候変動政策に関する対話を強化し、気候変動交渉における中心問題に関する意見を交換する。

 ・我々は、我々の経済のエネルギー集約度を大きく改善するそれぞれの目標を実現するために協力する。

 ・我々は、エネルギー効率を増強し、低炭素経済を促進するために、低炭素技術の開発・利用・移転に関する実際的協力を強化する。

 ・我々は、次の中心的分野における技術協力に合意した。

 −エネルギー効率、エネルギー保存、新及び更新可能なエネルギー、

 −クリーンな石炭

 −メタンの回収と利用、

 −炭素捕獲と貯蔵、

 −水素及び燃料電池、

 −発電と電力輸送。

 ・我々は、低炭素技術の開発・利用・普及を奨励する強力な措置を取り、この技術が手ごろなエネルギー選択となるように確保するために協働する。我々は、民間部門、ジョイントベンチャー、官民連携の役割や低炭素融資や輸出信用のありうる役割を含む資金問題を探求する。我々は、技術の開発・利用・移転の障害に取り組むために協力する。

 ・我々は2020年までの次の協力目標の達成を目指す。

 −中国とEUで、炭素捕獲と貯蔵を通じて先進的なゼロエミッションに近い石炭技術を開発し、実証すること、

 −中心的エネルギー技術のコストを大きく削減し、その利用と普及を促進すること。

 ・我々は既存の協力を強化し、また最近(05年3月)の次のイニシアティブを歓迎する。

 −中国におけるクリーンな石炭の開発における協働を促進する”クリーンな石炭に関する中国−EU行動計画、

 −エネルギー効率と更新可能なエネルギーに関する産業l協力に関する中国−EU行動計画。

 ・我々は、CDMの実施を強化するために協力し、CDMプロジェクトに関する情報を交換し、我々の企業がCDMプロジェクト協力に参加するように奨励する。我々はCDMの改善と一層の開発に関する対話に参加する。我々は、排出権取引などの他の市場ベースの手段の設計と実際的実施やその利用の費用と便益の評価に関する情報と経験の交換を促進する。

 ・我々は、次のことを通して気候変動の影響への適応に関する協力を強化する。

 −気候変動の悪影響とそれに対する脆弱性に関する研究と分析、

 −気候変動を予測とその影響を予測する科学的・技術的・制度的能力の強化、

 −気候変動に適応する技術と措置に関する研究と開発、

 −脆弱性軽減と適応の必要性を持続可能な発展戦略とその実施に統合する意識を高めること。

 ・我々は、公衆の意識を高めること、人員の交換、訓練などを通して能力建設と制度の強化における協力を強化する。

 以上のように、 このパートナーシップは、米国が中国、インド、オーストラリア、日本、韓国を巻き込んで京都議定書方式の温暖化抑制策を葬り去ろうと企む新技術利用促進協定(米国熱波で37人死亡 米政府は中国・インドを抱き込む京都議定書抹消作戦,05.07.29)と同様、焦点を温室効果ガス削減技術に関する協力に当てている。中国は世界最大の温室効果ガス排出国となると目されるだけに、その効果に大きな期待がかかる。

 しかし、欧州委員会の狙いはそれだけではなさそうだ。欧州委員会は、これが今年12月にモントリオールでスタートさせようとしている2012年以後(すなわち京都議定書の期限切れ以後)の気候変動への多角的取り組みに関する議論にはずみをつけようとするものでもあると言う。 実際、焦点は技術にあるとはいえ、それは政策対話や排出権取引にも踏み込んでいる。京都議定書以後の気候変動対策に関する議論で中国を米国から引き離し、EUの側に引き込もうとする努力を一歩前進させたものと言えよう。