熱波で植物生長が前例のない減速 温暖化で温帯生態系がCO2排出源に変わる恐れ

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.23

 ヨーロッパの研究者が、地球温暖化は作物の収量や植物の生長を減らすという新たな研究を発表した(*)。

 今年4月、米国研究者が、大気中の二酸化炭素濃度の上昇による「施肥効果」により気温上昇の作物生産への悪影響が相殺されるという通説を覆し、温暖化が世界の基本食料作物生産の生産性を予想以上に減らすと警告する研究を発表したが(地球温暖化の食料作物生産への影響 以前の予想よりはるかに深刻ー英国科学アカデミー国際会合,05.4.27)、それに続くこの発見は、地球温暖化の農業生産性への深刻な影響に一層の警鐘を鳴らす。

 年々上昇したきたフランスの作物収量は、2003年には平年に比べて20%減少した。イタリアのトウモロコシ収量は36%も減った。オークやマツの生長率も減り、植物生長は全体的には30%減速した。研究は、このような植物生産性の減少は、前世紀には前例がないという。

 しかし、問題は植物生産性にかかわるだけではない。温暖化に伴って植物生長が減速することは、植物が大気中の二酸化炭素吸収能力が減ることを意味し、温暖化の促進要因ともなる。

 この研究は、40の森林サイトと1つの草地サイトで二酸化炭素濃度を半時間ごとに測定して得られたデータを基に、熱波の期間のヨーロッパ大陸全体の森林と草地からの炭素の流れを描きだした。2003年の真夏、ヨーロッパの植生から年間で10億トンに相当する炭素が吐き出された。その前の4年間には、年間およそ1億2500万トンの炭素の逆方向(大気から植物へ)の流れがあった。

 これは、2003年のような熱波の下では、温帯地域の森林も大気からの二酸化炭素吸収源とはなり得ないことを意味しよう。先に、温暖化に伴い土壌から放出される二酸化炭素が増大、土壌が二酸化炭素の純吸収源ではなく、純排出源となることによる温暖化が温暖化を呼ぶ”雪だるま”効果が始まっているという英国の研究について伝えたが(英国土壌からのCO2放出が排出削減努力を帳消しに ”雪だるま”効果出現の新証拠,05,9.9)、新たな研究は植物に関しても同様な問題が起きるであろうことを予測させる。

 研究は、将来の干ばつ事象の増加は温帯生態系を炭素排出源に変え、熱帯や高緯度地方で既に予想されている炭素−気候のフィードバックに寄与する可能性があると言う。

 土壌に関する研究の紹介でも言ったように、これはヨーロッパだけではなく、世界の温帯地域にも適用されよう。既存の温暖化予測の修正を迫る新たな要因が、また一つ加わった。 

 *Europe-wide reduction in primary productivity caused by the heat and drought in 2003, Nature 437, 529-533 (22 September 2005) ;Abstract:http://www.nature.com/cgi-taf/Dynapage.taf?file=/nature/journal/v437/n7058/abs/nature03972.html