自然災害急増が貧困削減の障害 環境的持続可能性と被害軽減を重視せよー世銀報告

農業情報研究所(WAPIC)

06.4.24

  この20年、モザンビークでは世界銀行(世銀)の貸付資金で487の学校が建設された。しかし、2000年の大洪水で同じ数の学校が破壊された。20年の努力が一回の洪水で無に帰したわけだ。先週末開かれた国際通貨基金(IMF)・世銀の春季会合に向け、このような例を引きながら、自然災害の急速な増加が貧困との戦いを妨げているとする世銀独立評価グループの報告が発表された。報告は、貧困軽減のためには、インフラやエネルギーへの投資はなお必要だとしても、環境的な持続可能性や自然災害の被害を減らすための備えが一層重視されねばならないと言う。

 Press Release:http://www.worldbank.org/ieg/naturaldisasters/docs/natural_disasters_press_release.pdf
 Executive Summary:http://www.worldbank.org/ieg/naturaldisasters/docs/executive_summary.pdf
 Complete Report:http://www.worldbank.org/ieg/naturaldisasters/report.html

 それによると、自然災害発生数は1975年の100以下から1990年代には200を越えるまでに増え、さらに90年代末からは一層急速に増加して400を越えるに至っている。中でも増えているのが洪水と暴風で、恐らくは気候変動(地球温暖化)に関連した厳しい天候事象の頻発と森林破壊・土壌浸食などの環境損傷がこの趨勢をもたらしたことを示唆している。地震などの他の自然災害の数は安定的に推移している(下図参照)。

 

 災害の頻度が増しただけではない。損害額はそれ以上に増えている。2005年の損害額は実質ベースで1950年代の15倍にもなり、6520万ドルに達した。恐らくはこれら気象災害に弱い沿岸地域などへの人口集中が進んだためであろう。前の10年の罹災人口は16億人だったが、最近10年では26億人に増えた。

 報告は、このような自然災害の増加が貧困を削減するという世銀の使命の遂行の深刻な障害になってきたと言う。過去10年の災害発生後の復旧のための貸付のシェアは14%になる。それ以前の20年のこのシェアは10%だった。途上国はこのような災害で毎年300億ドルの損害を蒙るが、これは先進国が提供する援助の半分ほどに当たるという。

 報告は、環境的な持続可能性に焦点を当てる必要性とともに、自然災害を受けやすい地域からの住民の退去、低地地域における自然の洪水防壁(例えばマングローブ林)の設置、土砂崩れや土壌浸食を防ぐための植林、家屋の耐震性強化など、自然災害への備えの強化に一層多くの資金を振り当てることの重要性を強調する。

 しかし、このような目標の実現は途方もなく困難だろう。

 利益本位の巨大企業による森林破壊がますます加速していることは、このホームページでも再三報じてきた。土地なし農民による森林侵略も非難されるが、彼らはそうする以外に生き残る手段がない。土壌浸食・砂漠化に拍車をかける過放牧や農地開発も同様だ。過放牧・過剰伐採・燃料用木材 の過剰採集が加速する砂漠化やその結果である黄砂がもたらす巨大な経済的損害を意識する中国政府も砂漠化防止に懸命だが、成功はいつのことか分からない。

 China launches major plan against desertification,SciDev.net,06.3.1
 http://www.scidev.net/News/index.cfm?fuseaction=readNews&itemid=2692&language=1
 Sandstorms not to dull Beijing's "Green Olympics": forestry official,xinhua.net,4.20
 http://news.xinhuanet.com/english/2006-04/20/content_4454514.htm
  Wen sets out strategy to tackle environmental issue,xinhua.net,4.23
  http://news.xinhuanet.com/english/2006-04/24/content_4465638.htm

 自然災害頻発を招く気候変動や森林破壊・土壌浸食・砂漠化は、多くは修正困難な人間の行為と関連している。

 また、人々は、危険地域だからといって住み慣れた土地から簡単には離れられない。離れたくても生計の立つ行き先もない。今年2月の山崩れで大量の死者を出したフィリピン・レイテ島の村人は、山崩れを防ぎようがないこの危険地域から出て行くことが最善とされるが、出て行く先がない。

  Canadian landslide expert here to study Leyte tragedy,INQ7.,net,06.3.13
  http://news.inq7.net/leytelandslide/index.php?index=1&story_id=69210
  Relocation of two villages near Guinsaugon urged,INQ7.,net,06.3.5
  http://news.inq7.net/leytelandslide/index.php?index=1&story_id=68382

  PNRC readies resettlement for residents near Guinsaugon,INQ7.,net,06.2.28
  http://news.inq7.net/leytelandslide/index.php?index=1&story_id=67835

  2年前の洪水・土砂崩れの元凶とされ(台湾大洪水、山地住民の移住計画を促す 土木工学ではもはや住民を救えない,04.7.13)、山地(標高500m以上の土地)での果樹栽培を禁止された台湾農民は、今年3月、それなしでは生計が立たないと大規模な抗議行動を展開した。

 Fruit farmers protest land policy,Taipei Times,3.22
 http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2006/03/22/2003298594

 関連ニュース
 Disasters set off by severe weather show sharp rise,Financial Times,4.22,p.5
  World Bank's Internal Examination Urges Disaster Readiness,The Washington Post,4.22
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/04/21/AR2006042101748.html