ハンガリー 洪水激化で農地を貯水場に 穀作から放牧や養殖への転換を奨励

農業情報研究所(WAPIC)

06.4.24

 気候変動の影響か、中東欧諸国はこのところ毎年のように大洪水に襲われている。今年は特にひどい。大雨と雪解け水でダニューブ川が増水、バルカン諸国が100年来といわれる大洪水に見舞われている。こうしたなか、ハンガリーが 洪水が起きやすいティサ川の洪水を防ぐために、農地を10億㎦の水の貯水場として使う計画を立てている。

 ファイナンシャル・タイムズ紙の報道によると、環境大臣は、これはまったく新しい哲学で、2000年と2001年の洪水で、もはや堤防を高くすることだけが解決策ではないことを実感したと言う。これは、オランダ、イギリス、中国などに見られる一層自然に順応した洪水コントロールに向かう世界的な流れを反映するものという。極端な異常気象がもたらす河川の氾濫は、強大な自然の力も抑え込めると自負してきた近代的土木技術の限界を知らしめ、漸くかつての治水思想・技術を蘇らせつつあるようだ。

 Hungary to let farmland soak up flood damage,FT.com,4.23
 http://news.ft.com/cms/s/54089d3e-d2e6-11da-828e-0000779e2340.html

 ティサ川の洪水は、氾濫を押さえ込もうとする19世紀の河川工事により増幅されてきた。WWF・ハンガリーのViktoria Sipossは、「洪水は、かつては巨大な面積に浅く広がることができた」が、閉じ込められた川は堤防を破り、罹災地域に一層集中的な影響を与えると言う。流路を短くすることで流れは速くなり、そのために川床が深くなり、地下水位が下がった。これは流域の干ばつにも寄与してきたという。

 新たな計画では、政府はティサ川近くの農地に緊急時に氾濫を許す12の貯水場を作る。二つは今年年末までに完成、2020年までにすべてを完成させる。環境大臣によると、これら貯水場には、ティサ川の水位を1m下げるに十分な10億㎦の水を貯えることができる。また、それは集約的農業地域の野生動物生息地も豊かにするという。

 農民は、洪水から容易に立ち直ることができるように、穀物から牧畜あるいは養殖漁業に土地利用を転換することを奨励される[筆者の故郷の伊那谷では、天竜川が急に狭まる天竜峡にさしかかる辺りの流域には桑を植えていた。洪水常襲地域農民の智恵だ]。

 この計画の実現には時間と大きな費用がかかるが、全部で2億2600万€の資金をハンガリー政府とEUが折半支出する。この費用は高すぎるように見えるが、ハンガリー政府は氾濫防止のために、今年既に3000万€を支出した。このような支出がなくなると考えれば安いものという。

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