米国西部の森林火災急増は地球温暖化が原因 温暖化加速の要因にもー米国の研究

農業情報研究所(WAPIC)

06.7.8

  カリフォルニア大学スクリプス海洋研究所のアンソニー・ウエスターリング 率いる研究チームが、米国西部山地、特にロッキー山脈北部における森林火災の1980年代半ば以降の急増が、主に地球温暖化によりもたらされたらしいことを明らかにした。

  Anthony Leroy Westerling et al,Warming and Earlier Spring Increases Western U.S. Forest Wildfire Activity,Science,Published Online July 6, 2006;abstract

 研究チームによると、米国西部のおける森林火災が最近数十年の間に増加してきたことは広く認められており、この変化をめぐる一般的・科学的議論は、森林伐採などの人間活動による19世紀、20世紀の土地利用の変化に焦点を当てている。しかし、驚くべきことに、最近の変化の程度については系統だった記録がされてこなかった。そこで、彼らは、1970年代以来34年間に起きた1116の米国西部における大規模森林火災の包括的データベースを作り上げ、それを水文-気候及び土地利用に関するデータと比較した。

 その結果、大規模森林火災は1987年以後に突然、劇的に増加していることが分かった。この年以後の17年間の火災の頻度は、以前の17年間の頻度の4倍近くに増えている。消失面積では6倍にもなった。最大の増加は標高が中位(1マイル以上)のロッキー北部の森林で起きていた。年々の火災のデータを春夏の気温と雪解けの時期と比較すると、最大の増加を示したロッキー北部の森林火災は気温上昇と春の早い雪解け、乾季の長期化に強く関連していた。ここでは、土地利用の変化の火災リスクへの影響は比較的小さいという。

 この発見は、論争の多い現在のブッシュ政府の森林火災防止政策に重大な疑問を投げかける。ブッシュ政府は、森林火災多発の原因は保護が行き過ぎたために森林が過密化していることにあるとして、防火対策の焦点を森林をより開けた状態にするための低木の除去や樹木の択伐の推進に置いてきた。それは、防火を理由に、保護を優先する森林政策から経済的利用を促進するというブッシュ好みの政策に転換させようとするものという批判も招いてきた。

 しかし、この発見が正しければ、少なくともこのような画一的防火対策は不適切ということになる。この研究を取り上げたネイチャー・ニュースによると、ウエスターリングは、地方の気候がロッキーの森林火災促進要因になっているのだから、植生管理は防火のために機能しないだろう、画一的政策、どこでも択伐政策への傾向が常にあるが、これはロッキーのような場所では不適切だろうと言う。 


(筆者撮影)

 ロッキー山地にはロッジポールパインやトウヒが蜜に生えている。南西部のポンデローサパインの森林の樹木はもっとまばらに生えており、これらの開けた森林の火災は林床近くで発火するから、このような防火策も有効であり得る。そうであるとしても、研究チームは、雨季と乾季の気候の揺れ(後に燃えることのできるみずみずしい植物の創生)がこれら火災の要因であることも発見したという。

 Warming climate fuels fires in Rockies,news@nature,7.6
 http://www.nature.com/news/2006/060703/full/060703-15.html

 要するに、地球温暖化が抑制されないかぎり、米国の森林火災はますます頻度を増し、大規模化し、火災シーズンも長期化するだろうということだ。この傾向は今年も既に現れている。

 7月7日、米国火災情報センターは、今年になって全米で313の森林火災が報告されたと発表した。大規模火災は、カリフォルニアで2件、アラスカ、アリゾナ、テキサス、オクラホマ、アイダホ、ネバダ、ニューメキシコ、モンタナ、ワイオミングで各1件起きた。1月から7月7日までの火災面積は、2000年以降最大であった2002年の12万haを大きく超える16万haに達した。

 National Fires News:http://www.nifc.gov/fireinfo/nfn.html

 米国だけではない。今週はカナダ西部のブリティッシュ・コロンビア州でも大規模森林火災が発生、鉱山町の4000の住民に非難命令が出された。サスカチェワン州北西部でも2000の住民が避難を強制されている。

 Canadian Forest Service:http://www.nrcan-rncan.gc.ca/cfs-scf/science/prodserv/firereport/firereport_e.php

 これをまさに対岸の”火事”と見ているわけにはいかない。森林火災が生態系・バイオマスにもたらす影響は北米だけにとどまらない。先のネイチャー・ニュースによると、研究者は、大規模化する森林火災は、米国西部の森林を、それが吸収する以上の二酸化炭素の排出源に変える可能性があることを示唆している。モンタナ州立大学の米国西部の火災と気候誌の研究者は、現在の気候予測では、米国の森林が大きな二酸化炭素排出源となることは計算に入れられていないと言う。北米の森林火災は、それにより放出される大量の二酸化炭素による温暖化の加速を通じて、世界全体に影響を及ぼすということだ。

 ノーベル経済学賞の受賞者であるジィセフ・スティグリッツ教授(コロンビア大学)は、”二酸化炭素の排出が米国内だけにとどまり、気温上昇も自国だけで、ハリケーンも含め一切の代償を自国内だけで引き受けるなら”、”「ならず者国家」と化す米国のような国の他国への負担押しつけ”も結構だろうと言う(「経済教室 温暖化ガス削減 環境税で」 日本経済新聞朝刊 06年7月4日)。だが、そんなことはあり得ない。米国にも、一刻も早く温暖化ガス排出削減の負担を引き受けてもらわねばならない。[スティグリッツ教授は、”他国への負担押しつけを防ぐメカニズムを強化する必要がある”として、世界共通の環境税を排出量に課税するという京都方式に代わる温暖化ガス排出削減策を提唱している]

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