米国移民規制強化で森林の大量焼失の恐れ 消防隊員の大半がメキシコ人移民

農業情報研究所(WAPIC)

06.5.29

 先般、現在議論されている米国の移民規制で米国農業が立ち行かなくなると米国農業者とアグリビジネスが大騒ぎしていると伝えたが(不法移民なしでは立ち行かない米国農業・アグリビジネス 不法移民取締り論争で露呈,06.4.27)、ニューヨーク・タイムズ紙によると、森林火災シーズンが近づく西部では消防活動にも支障が出る恐れが強まっている。

 With Illegal Immigrants Fighting Wildfires, West Faces a Dilemma,The New York Times,5.28

  北西太平洋地域を拠点とし、森林火災と戦うために州及び連邦政府と契約したおよそ5000の消防士の半分は、大部分がメキシコからの移民である。そのうちどれほどの者が不法収就労しているか分かっていないが、米国森林局の最近の報告は、この数年間、不法移民が火災と戦ってきたと述べている。森林局は、最近の移民論議に対応、移民・税関当局や社会安全保障局と協力して違反の摘発に努めるという。同時に森林局のために民間消防契約を管理するオレゴン州は、消防士を雇う企業に、消防チームのリーダーが英語で指令することを義務づけるなどの厳しいルールを課した。

 2000年と2002年の最悪の火災シーズン以来、このような契約民間企業は規制が追いつかないほど急速に増加している。州統計によると、99年から03年の間だけでも、20人で構成される消防チームを持つ小規模契約企業が倍増、300になっている。今年は237の民間消防チームが必要と予想されている。これらチームは、アイダホの国家防火センターを通じ、国中のどこにでも派遣される。最近は、火災の大規模化と頻繁化のために地方だけでは手に負えず、モンタナ、ユタ、コロラドからワシントン、オレゴンに至るあらゆるところに派遣されている。

 最も必要とされており、危険でもある西部では、これら消防士は時給10ドルから15ドルで、州に100時間も大火と戦う。このような低賃金と長時間労働を引き受けるのが移民労働者ということになる。このような移民労働者を雇う企業なしでは、森林火災消化活動も立ち行かなくなっいるわけだ。

 ところが、移民規制の強化は、このような企業も駆逐してしまうという不安が広がっている。州と連邦の移民政策の変更で、例え合法な移民労働者であっても、多くの移民が仕事から放り出されるだろうと言うヒスパニックの契約消防士がいる。他の森林労働者も、不法労働者の締め出しを許すには、消化の仕事は重要に過ぎ、埋めるのも難しいと言う。

 1980年代に農場労働者としてメキシコからやってきて、2001年に防火企業を立ち上げた一メキシコ移民は、新たなルールは彼を破産させる恐れがあると言う。彼は労働者を失うだけではない。ヒスパニックでない者が所有する傾向がある大規模企業が移民と安全性の問題を煙幕として利用、彼のような小規模企業者を駆逐してしまうと言う産業幹部もいる。

 しかし、それで米国の森林は保護できるのだろうか。米国で焼失した森林面積は、1996-2005年の年平均で50万エーカー弱であった。焼失面積は増える傾向にあり、2004年と2005年の焼失面積は80万エーカーを超えた。

 US Forest Service:http://www.fs.fed.us/news/fire/acres.shtml

  温暖化に伴い、今後ますます増えると予想される。そのようなときに消化能力の減退するならば、ますます大量の森林が荒廃に帰するであろうことは明らかだ。移民規制の行方は、米国森林の運命も握っている。白人が支配者顔をする米国社会の弱点がまた見えた。