インドネシア 泥炭地破壊で世界第3位のCO2排出国 木材・パームオイル需要と地域経済開発が元凶

農業情報研究所(WAPIC)

06.11.5

  泥炭の分解や火災によって排出される大量の二酸化炭素が、インドネシアを世界第3位の温室効果ガス排出国に押し上げている。 気候変動と化石燃料利用に関係する行動を議論するために11月7日にケニア・ナイロビで開かれる2006年国連気候変動サミットに向け、国際湿地保全連合がこのような報告を発表した。

 Peatland degradation fuels climate Cahnge,06.11.2
  http://www.wetlands.org/publication.aspx?ID=d67b5c30-2b07-435c-9366-c20aa597839b

  報告によると、東南アジアの湿地地域は、広大な面積の稠密な低地雨林で覆われているのは通例だった。水に浸かった湿潤な土壌では、植物は非常にゆっくりと分解する。過去数千年をかけて、泥炭の厚い層が形成され、それは現在の世界の化石燃料の利用量100年分に相当する炭素を蓄積している。ところが、これらの森林のうちで手付かずで残っているのはほんの僅かで、影響を受けていないところはまったくない。

 この破壊の背後には、木材、紙パルプ、パームオイルに対する世界の需要と地域経済開発の促進がある。地域は雨林伐採を可能にするために排水される。森林が刈り払われると、パームオイルなどの商業生産を可能にするために、地下70cm以上の層まで排水が進む。泥炭は通常は水に浸かっており、燃えない。しかし、排水を通して泥炭が乾燥、分解が始まり、二酸化炭素を放出するようになる。熱帯ではこの過程が急速に起き、火災により加速させる。インドネシアでは、これら火災は何週間、ときには何ヵ月も続き、広大な面積の厚い泥炭層を燃やす。

 新たな研究で、泥炭地から排出される二酸化炭素は年々20億トンに上り、うち6億トンは乾燥した泥炭の分解、14億トンは火災から生じることが分かった。この量は炭素排出に関する世界的構図を変える。公式統計に基づく二酸化炭素排出量の国別ランクではインドネシアは世界で21番目だが、泥炭地からの排出量を含めると、米国、中国に次いで世界第3位となる。その排出量はインド、ロシアの排出量を上回り、イギリスやドイツの排出量の数倍にもなる。それは、京都議定書の下で温室効果ガス排出を削減しようとする先進国のあらゆる努力を帳消しにするという。こうして、報告は、泥炭地の退化の気候変動への巨大な影響に改めて注意を促す。

 しかし、先進国の木材需要が促すインドネシアの大規模な違法森林伐採を止める有効な手立ては未だに見つかっていない。そして、地域住民の焼畑開墾や大企業によるパームオイル等大規模プランテーション 造成・拡張のための火入れによる泥炭地の大規模火災発生も、インドネシアの乾季の通例となってきた。スハルト時代からの開田で米自給を達成したインドネシアを再び米輸入に追い込んだ今年の干ばつ (これは、一部は森林破壊のせいでもある)は特に厳しく、森林火災は例年にない規模に達した。インドネシアはもちろん、マレーシア、シンガポールも、森林火災が吐き出す煤煙で、呼吸器問題をはじめとする深刻な健康問題に直面した。人々はマスク無しでは外出できす、学校や空港は頻繁に閉鎖に追い込まれ、船舶の航行さえ妨げられる日が続いた。マレーシアの農民は、日照が妨げられ野菜が育たないと、農業被害さえ訴えている。

 森林火災の消化作業は一向に進まない。雨だけが頼りで、人工降雨も試みたが無効だった。乾季は異例に伸びて、雨は一向に降る気配もない。11月に入り、ロシアが航空消防団を救援に送って消化活動を始めたが(Russian planes begin dousing Indonesian fires,ANTARA,11.2Two Russian water bombing aircrafts to be operated for 10 days in S.Sumatra,ANTARA,11.2)、なお空港閉鎖が起きている(Samarinda airport closed due to haze,ANTARA,11.3)。

 環境団体は、多くの火災の原因は、森林への火入れの禁止を大規模プランテーションが守っていないことにあると指摘してきた。 森林焼き払いは、伐採に比べてはるかに手っ取り早く、安上がりな農場造成・拡張方法だ。このような大規模パームオイルプランテーション企業にはマレーシア企業も含まれる。マレーシア政府は、 火入れをするマレーシア企業を摘発し、厳罰を科すようにインドネシア政府に要請した。しかし、インドネシア政府は、この要請に応える意志もなければ、能力もない。

 国際湿地保全連合は、泥炭地保全と回復への投資が気候変動緩和戦略の基本的部分を構成すべきである、比較的小額の投資で温室効果ガス排出削減に大きな影響を与えることができるばかりか、干ばつと洪水の緩和、生物多様性保全、貧困削減にも役立つと言う。

 インドネシア政府は、最近になって、漸く泥炭地回復に乗り出した。スハルト時代に食料生産のために開発された1万2000haの地域の回復を図るという(Presidential decree on peat land approved,ANTARA,10.17)。農地開拓のために火を放つことをやめるように農民に奨励するための作物の苗や無償資金の提供も始めるという(Farmers promised incentives to stop burning forests,Jakarta Post,11.3)。

  しかし、その一方で、 世界の健康志向(健康に有害とされるトランス脂肪に代替可能な飽和脂肪酸としてパームオイルへの需要が世界的に増えている)とバイオ燃料ブームの利益に与るべく、パームオイルプランテーションの大規模拡張計画も打ち出している(Govt intends to develop 2 million ha of plantations,ANTARA,10.4)。 開発最優先の姿勢は変わらず、安上がりな拡張のために起きるであろう火入れを取り締まる有効な手立ては一向に打ち出す気配がない。

 泥炭地破壊、毎年の森林火災とそれによる煙霧が生み出す経済的・健康的・環境的損害は、恐らくパームオイルが生み出す経済的・健康的・環境的利益をはるかに上回るだろう。しかし、目先の経済的利益を追う パームオイルプランテーションの無謀な開発が泥炭地と森林の破壊をますます助長することになりかねない。それを止めることができるのは、木材や紙、パームオイル、エネルギーの消費を減らすとともに、森林地域住民に持続可能な生活手段をもたらすのを助ける国際社会と我々自身の行動だけかもしれない。

  関連論説
 Fighting fires with a pseudo-Kyoto protokol,Jakarta Post,10.13
 http://www.thejakartapost.com/yesterdaydetail.asp?fileid=20061013.E03

 関連情報
 石油価格高騰でパームオイル・ブーム 森林・野生動物・原住民・環境に破滅的影響の恐れ,05.10.13