最近の大気中CO2濃度急上昇は高温による植物の炭素吸収減少のためー英国の研究

農業情報研究所(WAPIC)

07.5.14

 英国・ブリストル大学の研究者等からなるヨーロッパの研究チームが、気候変動は、それに伴う乾燥や高温自体が大気中の二酸化炭素(CO2)濃度を高める、いわば”臨界点”に達したのではないか疑わせる研究を発表した*。国連気候変動政府間パネル(IPCC)は今月はじめ、遅くとも今後30年以内にCO2排出量を減少に転じさせれば地球温暖化の最悪の影響は回避できるとする報告書を採択したが、この研究は、そんな時間も残されていない可能性を示唆する。

 今世紀に入って以来、大気中のCO2の濃度は急上昇しており、最近の5年のうち4年の異例の高濃度は化石燃料燃焼による排出増加では説明できない。森林火災やエル・ニーニョなどの天候事象によっても一部が説明できるだけだ。新たな研究によると、最近の大気中CO2濃度の急上昇は、高温・乾燥で人間が排出する炭素を再吸収する樹木の能力が衰えたことで説明できる。

 研究チームは、2002−03年の大気中CO2濃度を土壌や樹木を含む植物が様々な条件の下でどのように振舞うかのシミュレーションと比較した。その結果、大気中CO2の追加分が、異例の乾燥と高温のために減った植物の炭素吸収量に相当することが突き止められた。研究者は、エル・ニーニョだけでなく、全緯度で起きた2002−03年の異常な不安定気候(climate fluctuations)のすべてが陸地生物圏のCO2の異常に強力な放出を生み出すように作用したように見えると言う。

 気候変動とともに、climate fluctuationsがますます激しく、頻繁になるであろうことには既に合意があると言えよう。炭素排出削減の効果はそれによって大きく相殺されてしまうことになるだろう。

 *Knorr, W. et al.,Impact of terrestrial biosphere carbon exchanges on the anomalous CO2 increase in 2002–2003,Geophysical Research Letters,Vol. 34, No. 9;Abstract

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