地球温暖化の農業生産への影響 世界地域・国・国内ごとの初めての予測

農業情報研究所(WAPIC)

07.9.20

  地球温暖化の農業生産への影響を世界の諸地域・100ヵ国以上の国々・国内地域(大きな国について)別に推定した研究が初めて現れた。地球温暖化の経済的影響の研究で知られるウィリアム・クライン氏による研究で、地球開発センター(CGD)とピーターソン国際経済研究所によるGlobal Warming and Agriculture: Impact Estimates by Countryと題する本の共同出版で公刊された。

 その概要については、インター・プレス・サービス(IPS)が9月12日付けで紹介しており、その日本語要約紹介もあるが、CGDの報道発表にも拠りつつ、多少の重複を厭わず紹介する。

 ENVIRONMENT: Warming May Trigger Agricultural Collapse,IPS,9.12
 環境:地球温暖化は農業の崩壊に繋がる ,IPSJapan 9.20
 CGD
News Release: World Agriculture Faces Serious Decline from Global Warming,,9.12

 この研究は、温室効果ガス排出量増加のペースが大きく削減されないという、気候変動政府間パネル(IPCC)のいわゆる”business as usual”(現状維持)シナリオを前提として2080年までの農業生産の変化を推定したものだ。ただし、大気中の二酸化炭素濃度が増えれば植物の二酸化炭素吸収も増え、植物生長を促すという”施肥効果”は最近の研究で疑われれていることから(参照:CO2レベル上昇で収量は増えない 今後50年の気候変動で飢餓人口が5千万人増加,05.9.7)、それがある場合とない場合の二通りにわけて推定した。クライン氏自身は、施肥効果がこの問題を解決すると仮定するのは極めて危険だと言う。

 この推定によると、平均気温が既に作物の耐えられる限界に近い多くの途上国では、農業生産性は2080年までに9%(施肥効果あり)から21%(施肥効果なし)減少する(以下、施肥効果あり、なしの注記は省略する)。典型的には平均気温がもっと低い先進国への影響は、それに比べると穏やかで、8%の増加から6%の減少までの間に収まる。

 途上国を個別に見ると、多くの国がもっと大きな影響を受ける。インドでは30%から40%の減少が予想される。一部の小さな国については、農業は完全に崩壊するとしか言いようがない。既に少雨と市民戦争で農業生産が大きく後退しているスーダンでは56%、セネガルでも52%と半分以下への減少が予想される。

 熱帯から遠い中国は、平均的には大きな損害は受けないが(7%減から7%増)、南部中央部は破滅的影響を受ける。米国についても同様、北部では大きく増加するが、南東部・南西部平原地帯でが25%から35%の減少になる。全体では、同じく6%減から8%増となる。

 世界全体では、16%増から3%の減少である。ちなみに、日本は6%減から8%増、干ばつ続きのオーストラリアは27%から16%の大減収、 日本とのEPAで輸出拡大を狙う米など、消滅してしまう恐れがある。農業資源経済局(ABARE)の最新予測によると、今年の稲作さえも水不足でたったの6,000haにとどまる見通しだ。この半世紀来の最低面積だ。今後の農業拡張が最も期待されるブラジルも17%から4%の減少となる。 中国の大量の大豆輸入も保証されない。

 このように施肥効果のあるなしで、推定結果は大きく異なるが、もう一つの不確実要因は農業技術の発展の影響である。それが温暖化による悪影響を覆す可能性がある。

 しかし、この点に関してもクライン氏は楽観していない。1960年代から1970年代に年々2.8%増加していた世界の単位面積あたり収量は、過去25年には年々1.6%の増加にとどまる。人口と所得の増加に伴う世界の食料需要の増加と農地のバイオ燃料生産への転換の増加が、温暖化による僅かな損害でも今世紀後半の世界農産物需給のバランスを大きく崩す恐れがある。

 彼は、技術と適応への追加投資が温暖化の農業生産への影響を和らげ得るが、こうした投入が生産コストを引き上げ、価格も上昇させると見る。また、灌漑の増加は干ばつと熱波への対処を助けるだろうが、水不足と灌漑システムの高コストが問題解決を難しくするとも言う。

 ピーターソン国際経済研究所のフレッド・バーグステン所長は、この研究は、二つの最大汚染国、中国と米国は、全体的には今世紀後半までには農業の損害は受けないが、どちらも、厳しい国内移住を回避するための行動への参加を迫る国内地域の重大な損害を経験することになろうと言う。