地表オゾン増加が世界食料安全保障を脅かす 英国ロイヤル・ソサイエティの新研究報告

農業情報研究所(WAPIC)

08.10.7

  英国科学アカデミーのロイヤル・ソサイエティが10月6日、欧米や日本の規制にもかかわらず世界中で地表オゾンの濃度上昇が続いており、人間の健康や作物収量への影響が以前に考えられたいた以上に重大化する恐れがあるという新たな研究報告を発表した。特に作物収量への深刻な影響を明らにしたのがこの研究の最大の特徴で、地表オゾンのレベルの上昇が食料危機を引き起こしかねない。

 報告によると、地表オゾンの濃度は1980年代以来、10年に2ppbの率で増加し、大部分の工業化された国で35-40ppbの有害なレベルまでに上昇している。”地表オゾンは、かつては地域規模の問題と考えられていたが、世界的な汚染物質として登場した”。今や、世界食料安全保障への脅威と死者の増加を回避するために、地表オゾンの増加を抑える国際協定が必要という。

 Ground-level ozone in the 21st century: future trends, impacts and policy implications,Royal Society,10.6
 http://royalsociety.org/displaypagedoc.asp?id=31467

 オゾンは大気の自然の構成要素で、成層圏では、太陽からの高レベルの紫外線から地球を護る日除けの役割を果たしている。しかし、粒子状浮遊有機物質と主に自動車排気ガスから出る窒素酸化物の太陽光による光化学反応によって形成される地表オゾンは有害汚染物質である。

 世界保健機関(WHO)は、50ppb以上でないと人間の健康への悪影響はないとしているが、ロイヤル・ソサイエティの研究は35ppbで影響が見られるとしている。子供、高齢者や喘息患者は特に弱く、03年、オゾンに関連した英国の死者は1582人と見積もられている。研究は、将来の汚染物質排出と気候変動を考慮すると、この数は、2020年には51%増えて2391人に達すると見る。ただし、これもオゾンの健康影響は35ppb以上でのみ起きると仮定しての話で、今ではこれ以下の汚染レベルでの健康影響も知られているということだ。

 研究は利用可能な最新のデータを精査、2000年から2050年までのオゾン濃度の変化を予測した。それによると、既存の規制が守られれば、先進国では2050年までに最大で15ppb下がる。しかし、規制がほとんどない途上国では3ppbほど上昇する。健康影響もさることながら、小麦、米、大豆などの主要作物の収量と栄養分への影響はとりわけ心配される。ヨーロッパや北米では、現在の濃度で収量への大きな影響が見られる。EUは2000年、収量への影響で 67億ユーロの損失が出たと推定されるという。

 オゾンの増加による収量損失は、今後20-30年にわたって増えそうだ。南アジアのような急速に発展する地域では、小麦、米などの基礎食料に対するオゾンの影響が地域の食料安全保障への重大な脅威となる。モデル研究では、インドの2000年の損失は、小麦で13%、米で6%、大豆で19%と推定された。実験データは、この数字がずっと大きくなることを示唆しているという。 

 研究は、気候変動がオゾンのレベルの削減を一層難しくすることも強調している。そして、オゾンは第三の重要な温室効果ガスだから、オゾンの増加が気候変動をさらに加速するとも言う。

 参考
 
Press release:Ozone controls failing to protect human health and the environment,Royal Society,10.6
 http://royalsociety.org/news.asp?id=8043

 Ground-level ozone on the rise,Nature News,10.6
 http://www.nature.com/news/2008/081006/full/news.2008.1153.html 

 'Lives at risk' in failure to fight ozone,Times,10.6
 http://www.timesonline.co.uk/tol/news/environment/article4887709.ece
 

 関連情報
 
気候変動に伴う地表オゾン増加で大豆収量が大きく減少ー米国の屋外実験,06.3.20