気候変動に伴う地表オゾン増加で大豆収量が大きく減少ー米国の屋外実験

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.20

  米国・イリノイ大学の研究チームが地表のオゾンの濃度の上昇が大豆の収穫を減少させることを示唆する研究を発表した。このオゾンは自動車や工業が生み出すガスが太陽光と反応して生成されるもので、気候変動国際パネルは2050年までに23%増加すると予測している。

 Stephen P. Long et al,Season-long elevation of ozone concentration to projected 2050 levels under fully open-air conditions substantially decreases the growth and production of soybean,New Phytologist
 Online Early;doi:10.1111/j.1469-8137.2006.01679.x
  Summary:http://www.blackwell-synergy.com/doi/abs/10.1111/j.1469-8137.2006.01679.x

 研究者は、地表オゾンの濃度上昇が作物収量を減少させるという屋内実験に基づく報告は以前にもあったが、この研究は、フリーエアガス濃度引き上げ(FACE)と呼ばれる技術を使ってオゾン濃度を高めた屋外の畑での大豆収量への影響を初めて調べたもので、より現実に近い屋外の条件では損失が一層大きくなる恐れがあると言う。

 この研究を率いたロング教授は、以前、二酸化炭素に関する米国、中国、日本の同様な実験の結果は、すべて、トウモロコシ、コメ、大豆、小麦における「施肥効果」が閉鎖系での実験に比べて半分にすぎないことを示している、さらに地表オゾン濃度の20%の上昇は作物の20%の減収をもたらすと報告している(地球温暖化の食料作物生産への影響 以前の予想よりはるかに深刻ー英国科学アカデミー国際会合,05.4.27)。

 今回発表された研究では、二つの栽培シーズンにわたり日中のオゾン濃度を56ppbから68ppbに23%増加させた。そうすると、大豆の種子収量は20%減少した。地上部の純一次総生産は、種子を除く地上部組織の間の乾物量の分布に変わりはなく、17%減少した。生きた葉の減少と稔実期の光合成減少がオゾンに誘導される生産と収量の損失に追いやったように見えるという。

 研究者は、この研究結果は、屋外の条件での収量損失は、既に報告されている室内実験での大きな収量損失よりももっと大きくなることを示唆する、また、損失が激しい雹の嵐の後の2年目の方が大きかったことは、オゾンが引き起こす損失は極端な気候事象でさらに膨らむことを示唆していると言う。

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