農業情報研究所環境気候変動・災害・砂漠化・水問題等気候変動と農業・食料生産:2012年11月1日

温室効果ガス 食料システムからの排出が3割にも 気候変動は食品安全も脅かす

 国際農業研究協議グループ(CGIAR)が10月31日、小麦、米、大豆、トウモロコシ、じゃがいもなど、22種類の世界主要農産商品に対する気候変動(地球温暖化)のあり得る影響に関するjリポートを発表した。CGIARの「気候変動・農業・食料安全保障に関する研究プログラム(CCAFS)」による研究の成果である。

 それによると、気候変動のために、たとえば途上国における灌漑小麦の収量は2050年までに13%減る。同じく潅漑稲の収量は15%、トウモロコシ収量は15−20%減る。

 一部の作物については、耐暑(熱)性品種の育成によって適応が可能かもしれないが、他の作物については、作物や農法の転換など、もっと根本的な変化が必要になる。たとえば、中国やインドを含むじゃがいも栽培地域では、気温上昇のために収量が大きく減る。暖かい気候に適したバナナのような作物を考えねばならないかもしれないという。

 Recalibrating Food Production in the Developing World: Global Warming Will Change More Than Just the Climate、CGIAR、12.10.31

 同じ日、肥料製造から食品貯蔵・包装にまで至る世界食料システムが排出する炭素排出量は、最大で人為による総排出量の3割にものぼるという同じ研究プログラムによる別の研究成果も発表された。

 Sonja J. Vermeulen,Bruce M. Campbell,and John S.I. Ingram;Climate Change and Food Systems,Annual Review of Environment and Resources,Vol. 37: 195-222
 http://www.annualreviews.org/eprint/EBIXxM7sNxrBJyuRYgki/full/10.1146/annurev-environ-020411-130608

 以前の研究は、農業生産による温室効果ガス排出(土壌からの酸化窒素放出を含む)に焦点を当てててきたが、この研究は2005年、2007年、2008年のデータを使用して、世界食料システムの全段階での排出量を初めて検討した。

 それによると、農業生産による排出量は二酸化炭素換算で年に1万2000メガトン(最大)で、食料システム全体からの排出量の86%を占める。次いで多いのが肥料製造過程からの575メガトン(同)、冷蔵の490メガトンと続く。食料システム全体からの2008年の排出量は、森林消失や土地利用転換による間接的排出も含めて、二酸化炭素換算で9800−1万6900メガトンになる。

 イギリスのような高所得国では、貯蔵や輸送など、生産の後の過程での排出が多い。中国では肥料製造過程での排出が大きな割合を占める。

 この研究は、気候変動の食料システムへの影響にも言及する。それは複雑で、地理的にも時間的にも変わり、社会経済条件にも影響されるが、従来の研究は農業の収量や所得、食品の価格、流通、品質や、特に食品安全に影響を及ぼす証拠を提供している。気温上昇や洪水は、食品を安全に貯蔵し・流通させる農民の能力に挑戦、食品由来の病気を増やすだろう。作物の収量や温室効果ガス排出だけでなく、食品安全が将来の重要問題になるという。極めて斬新な着想だ。

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 Q&A: Food Production Accounts for 29 Percent of Greenhouse Gases,IPS,12.11.1
  One-third of our greenhouse gas emissions come from agriculture,Nature News,12.10.31