オバマ政府の気候変動との闘いがピンチ 石炭火力発電規制より森林燃やせと上院議員

農業情報研究所環境気候変動・災害・砂漠化・水問題等ニュース 2016年10月6日

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、オバマ大統領のクリーンパワープラン(CPP)が危機に直面している。その合法性を争う裁判(米最高裁、オバマ政権の石炭規制を差し止め 今後は合法性争点に ロイター 16.2.10)や化石燃料に利害関係を持つ議員や共和党議員の反対でその早期実施が困難になっているためではない。気候変動を断固として否認する共和党議員と政府の戦略を支持する民主党議員から成る相当数の上院議員が超党派で、CPPに代わる森林バイオマスプランを推しているからだ。

 CPPは2030年に向けての既存火力発電所からのCO2排出削減計画であり、石炭火力発電所の発電効率の向上、老朽石炭火力発電所の天然ガス火力発電所への切り替え、通常の石炭火力発電所の太陽光・風力発電所への切り替えをCO2排出削減の中心手段に据えている。

 ところが、バイオマスプランの唱道者は、森林は伐採されても再生し・再生された森林がその燃焼で生じたCO2を吸収するのだから発電のために森林を燃やしても大気中のCO2が増えることはない、すなわち”カーボン・ニュートラル”だと主張し、環境保護庁(EPA)や農務省(USDA)に対して森林が生み出す木材やその他の有機物を”再生可能エネルギー源として”認めるべきだと働きかけている。

   曰く、クリーンパワープランが成功したとしても、来年から2030年までに少なくとも8億3000万トン、年平均6400万トンのCO2が大気中に加わることになるが、これは2013年に48州で起きた森林火災で放出されたCO2に匹敵する。電力部門からのCO2排出を2030年までに2億5000万トン減らそうというプランの大穴がここにある。ならば、バイオマスからの炭素排出をカウントしないプランの方が効率的だというわけだ。

 このの提案は広範な支持を得ており、上院エネルギー委員会を全員一致で通過した。数週間以内に法律になるという。

 ただこの記事を見た読者からは、発電のために木を燃やすのは発電効率が非常に悪い、石炭を利用す方がまだましだとか、森林は確かに再生するが、排出された炭素を吸収するまでに成長するには数十年かかるとかいう意見が寄せられている。バイオマスはカーボンニュートラルという仮説に反対する Partnership for Policy Integrityのディレクターは、少なく見積もっても40年から50年は排出が吸収を上回ると言っているそうである。

 Next ‘Renewable Energy’: Burning Forests, if Senators Get Their Way,The New York Times,16.10.5