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EU:欧州委員会が環境被害予防・回復責任スキームを採択
−汚染者負担原則の実現に向けて−

農業情報研究所(WAPIC)

02.1.24 

 1月23日、欧州委員会は環境被害を予防し、回復することを目的とする環境責任に関する指令案を採択した。これは、EUが長年追求してきた「汚染者負担原則」の実現に踏み出す画期的な決定である。

 水質汚染、生物多様性への損害、人間の健康を深く害する土地汚染は、すべてこの指令でカバーされる。環境被害を引き起こす一定の危険な活動または危険性のある活動を営む事業者は、被害を修復する責任を負い、あるいは回復費用を負担することになる。過失により生物多様性に損害を引き起こすすべての事業者も損害回復の義務を負う。公権力は責任ある事業者が必要な回復措置を自ら実行するか、そのための資金を負担するように保証しなければならない。非政府組織(NGO)のような公益団体は、必要な場合には公権力に行動を要請し、公権力の決定が違法ならば提訴することもできる。以下、欧州委員会のPress Release(Making the polluter pay: Commission adopts liability scheme to prevent and repair environmental damage,2002.1.23)により、この指令案の概要を紹介する。

 予防措置

 予防に関しては、事業者の情況が環境被害を引き起こす可能性がある場合、これを避けるための予防措置が取られねばならない。

 回復措置

 それでも環境被害が生じたときには、EU構成国は被害の回復を確保しなければならない。構成国は、被害の重大性と程度を評価し、可能な限り責任事業者と協力して取られるべき回復措置を決定する。

 関係当局は事業者に対して必要な予防または回復措置を取るように要求でき、これらの措置の費用は事業者が直接調達する。これらの措置は関係当局自身、あるいは第三者が実施することもでき、また両者を適切に組み合わせることもできる。この場合、関係当局は、汚染者負担の原則に則り、回復費用を責任事業者から回収しなければならない。予防措置についても同様なルールが適用される。

 指令の適用範囲

 環境被害の予防または回復の費用に責任をもつ事業者は、指令の付属書に掲げられる危険な、あるいは危険性のある事業者で、これらには水または大気に重金属を放出する活動、危険な化学物質を生産する施設、埋立サイト、焼却施設が含まれる。付属書に掲げられる活動以外の事業者も、過失が明らかな場合には生物多様性の損害の予防または回復の責任を負う。これは、生物多様性の被害が国家法の対象となり難いという事実、あるいはその対象ではあっても現実には回復される保証がないという事実による。

 指令案には、国境を越えた被害や支払い不能な場合の備えての保険、その国家法との関係に関する条項、制度見直しに関する条項も含まれる。

 行動の要請

 十分な利害を有する(損害を蒙る)個人と並び、NGO等の公益団体は関係当局に適切な行動を要求することができ、またその行動(または行動を取らないこと)を司法に訴えることもできる。

 例外

 指令案は、法的安定性や革新の確保のための必要性によって正当化される若干の例外を認めている。例えば、今まで許容されてきた排出については責任は生じない。また、科学的・技術的知見の状態に従って環境に安全と考えられる活動や排出は指令の対象とならない。ただし、一定の場合には、過失事業者は例外の対象とならない。

 事業者の支払い能力の欠如は汚染者負担原則による費用回収を妨げる一つの要因であるが、指令案は各国が適切な保険制度を実施する自由をあたえている。

 今後の予定

 この指令案は2002年3月4日の環境相理事会に提出され、欧州議会と理事会の承認により新指令として最終的に採択されることになる。このいわゆる(欧州議会と理事会との)共同決定手続には、通常2年から3年を要する。EU法における「指令」の実施は、これに沿った国家法の制定を待たねばならないから、実施までには指令採択後、さらに2年ほどを要することになる。

 関連報道
 Polluting companies set to pay for cleaning costs,FT com,1.22

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