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米国:大気浄化法骨抜きへ

農業情報研究所(WAPIC)

03.8.29

 8月27日、米国環境保護庁(EPA)は、時代に逆行するブッシュ政府の環境政策の最大の焦点のひとつをなしてきた大気浄化法(Clean Air Act)の中心規程の骨抜きルールを決定した(*)。1977年大気浄化法は、発電所やその他の大気汚染物質の新たな排出源(プロセス・ユニット)に最新の汚染物質除去設備の導入を義務付けた。しかし、1970年以前に建設されたものについては例外とし、発電能力や汚染を増やす通常のメンテナンスを超える設備の更新や改修に際して、このような設備の導入を義務付けてきた。ところが、多くのプロセス・ユニットがこのような浄化設備を新設することなく、大規模な設備更改を行い、汚染を増やしているという現実がある。司法省は、このような51の発電所を大気浄化法違反として訴え、既に、これら発電所を運営する12社のうちの5社と和解を勝ち取っている。今月も、オハイオ・エジソンに対する重要訴訟で、連邦判事は、七つの石炭火力発電所が違法に更改されていると判決した。EPAの新たなルールは、浄化設備設置が義務付けられる設備更新や改修の基準を緩めることで、これらのユニットを免責することになる。

 EPAは、昨年12月に新ルールを提案、120日間にわたりコメントを受け付け、5回の公聴会を開いたのちに、最終的決定に踏み切った。新ルールの下では、更新構成要素の固定資本コストと更新活動の一部をなす修繕や維持のコスト(労働、契約サービス、設備レンタルなどのコスト)の合計がプロセス・ユニット全体の更新価格の20%を越えない場合、最新浄化設備の設置義務が免除される。この新ルールにより、1万7,000以上の工場が義務を免れることになると推定されている。発電、石油精製、有機化学工業、液化天然ガス、天然ガス輸送、紙・パルプ工業、自動車製造、製薬工業などが主に関係する。

 これら産業は日常的メンテナンスと大きな更新の区別が曖昧だと不平を訴えてきたから、新ルールを大歓迎している。EPAは、新ルールは規制の「確実性」を与えると同時に、設備更新を容易にし、一層安全で、効率的な操業をもたらし、発電所の場合には、環境的に健全で、一層安価なエネルギーを供給できるようにすると、この決定を正当化している。また、他の有効な汚染抑制措置が継続されるから、汚染物質排出の増大の恐れはないと主張する。発電所からの二酸化硫黄の排出は、1990年の大気浄化法修正により上限が課され、これが95年に発効、その排出量は1980年代より40%以上減少したと強調している。

 しかし、いくつかの州の環境担当官も含む批判者は、新ルールは汚染物質排出の増加を許すもので、法定闘争で闘うと宣言している。カリフォルニア環境保護庁長官のヒコックスは、「彼らがいったいどういうつもりなのか、私には想像もつかない。もちろん、特定の施設などを対象とする別の規制はある。しかし、これは多大な影響をもたらす広範で、一般的なアプローチだ。更新のときには、利用可能な最新のテクノロジーを導入しなければならない」、「カリフォルニアではこのような逆行を許すつもりはない」と語っている。マサチュセッツの司法長官・ライリーは、ブッシュ政府が大規模工場に大量の汚染物質を撒き散らすのを許していると、やはり法定に訴えようとしている(**)。28日付のニューヨーク・タイムズ紙社説(***)は、既に始まっている次期大統領選挙の前哨戦のなか、民主党候補はこれを大声で批難しており、穏健派共和党員も困惑している、1ダース、あるいはそれ以上の州が法定闘争を挑むが、この訴訟には容易に勝利するだろうと言う。それは、EPAは旧ルールが企業の日常的メンテナンスと工場の効率化を妨げていると言うが、政府はその証拠は全然出していない、新ルールの擁護者は旧ルールがあの大停電の原因だと言うが、停電は送電網かその管理の欠陥から起きたもので、環境規制や電力不足とは何の関係もないと、批判的立場を鮮明にしている。

 京都議定書の拒否に始まり、山火事防止を理由とした森林伐採促進、野生動物保護ルールの緩和など、次々とクリントン時代の環境政策を覆してきたブッシュ政権は、ホイットマンEPA長官を辞任に追いやり、ユタ州知事・マイケル・レビットを後任に据えようとしている。彼は、大統領同様に京都議定書に反対してきたし、グレートソルト湖周辺の湿地開発でも環境保護運動の批判を浴びてきた。環境政策の後退はますます進むであろう。しかし、それが次期選挙で大統領に「吉」と出るかどうか。米国環境政策は米国民だけでなく、地球環境の行方も大きく左右する。日本も他所事として見ているわけにはいかない。

 *EPA Press release,Text of the final "routine replacement" rule,Fact sheet summarizing the rule(02.8.27)
 **Administration Adopts Rule on Antipollution Exemption,The New York Times,8.28
 ***Politics and Pollution,The New York Times,8.28

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