連邦控訴裁判所 ブッシュ政府の発電所等大気汚染抑制ルール緩和に違法の判決

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.20

  米国の連邦控訴裁判所が老朽化した石炭発電所などによる大気汚染を抑制するための排出ルールを緩和しようとするブッシュ政府の4年にわたる試みは大気浄化法に違反しており、このようなルール変更は議会だけが承認できるとする判決を下した。このようなルール変更は、時代に逆行するブッシュ政府の環境政策を象徴するものとなっており、経済を最優先して環境保全を軽視するブッシュ政府にとって大きな痛手となる可能性がある。

 報道によると、米国コロンビア地区控訴裁判所の3人の判事すべてが、老朽発電所、精製所、工場が最も先進的な汚染抑制設備を新設することなく施設を更新することを許すというルール変更は違法であり、大気汚染による健康への脅威を増すというニューヨーク州、jカリフォルニア州、メリーランド州等14州の主張を支持した。

 1997年大気浄化法は、発電所やその他の大気汚染物質の新たな排出源(プロセス・ユニット)に最新の汚染物質除去設備の導入を義務付けた。これにより、1970年以前に建設されたものについては例外として、発電能力や汚染を増やす通常のメンテナンスを超える設備の更新や改修に際して、このような設備を導入することが義務付けられた。ところが、ブッシュ政府の下、環境保護庁(EPA)は2002年12月、更新構成要素の固定資本コストと更新活動の一部をなす修繕や維持のコスト(労働、契約サービス、設備レンタルなどのコスト)の合計がプロセス・ユニット全体の更新価格の20%を越えない場合、最新浄化設備の設置義務が免除されるという新ルールを提案、120日間のコメントを受け付けたのちの03年8月、最終決定に踏み切った。

 EPAの言い分は、既存の基準は厳しすぎ、発電所や工場の設備更新や拡張の意欲を挫くことで、一層の大気汚染につながっているというものだった。しかし、この新ルールが適用されれば、発電、石油精製、有機化学工業、液化天然ガス、天然ガス輸送、紙・パルプ工業、自動車製造、製薬工業など1万7000以上の工場が以前に課されていた義務を免れることになると推定された。いくつかの州の環境担当官や環境団体は、新ルールは汚染物質排出の増加を許すものと、法廷闘争を挑んできた。そのために、新ルールは今まで実施されることなく、たな晒しとなってきた。いまや、このような争いに最終的な決着がつこうとしているわけだ。

 米国:大気浄化法骨抜きへ,03.8.29

 法廷闘争を率いてきたニューヨーク州司法長官は、この判決を”清浄な大気と公衆衛生のための大勝利”、”間違った政策の拒否”と呼び、”これは、産業が古く、汚い工場を延命する代わりに、新たな一層清浄な設備を建設することを促す”と語ったという。ある研究は、石炭発電所からの汚染が米国における毎年2万の早死に関連しているとしている。このタイプの汚染の抑制のための立法・法的行動を最優先課題の一つとしてきた環境活動家も、この判決を歓迎している。

 EPAのスポークスマンは、”我々は裁判所が米国に味方しなかったことに失望している。意見を精査し、分析している最中で、今はこれ以上のコメントはできない”と発表した。その声明は、EPAが控訴するつもりがあるかどうかは示していない。産業の代表者は、控訴裁判所の強力な判決に照らして、政府が前進するのは難しいだろう、決定は裁判所が[新]ルールを棺がある6フィートの地下に埋めたに等しいと語ったという。

 彼らは、「これは発電所の効率を改善し、労働安全を改善するのを容易にしたはずの改革の機会を失するもので、消費者と環境にとって悪いニュースだ」、「我々はこれが米国の大気質保護の一歩後退であると信じる」と語っている。

 願わくば、この判決が、経済効率を最優先し、環境・労働安全・食品安全を軽視する諸産業と米政府の方向転換のきっかけとなって欲しいものだ。牛肉に骨の小片が混じるのは、世界中どこの国の食肉工場でもあることだと農務長官が開き直るような国では、これはとても期待できそうにもないけれども(牛肉骨混入「どこでも見られる」…米農務長官、Yomiuri Onlien,3,17;http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe4700/news/20060317it02.htm)。

 Looser Emission Rules Rejected,The Washington Post,,3.18
 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/03/17/AR2006031701127.html
  Judges Overturn Bush Bid to Ease Pollution Rules,The New York Times,3.18
  http://www.nytimes.com/2006/03/18/politics/18enviro.html
  Editorial:A Breath of Fresh Air,The New York Times,3.19
  http://www.nytimes.com/2006/03/19/opinion/19sun2.html?n=Top%2fOpinion%2fEditorials%20and%20Op%2dEd%2fEditorials