2050年 現在の生活スタイルを続けるには地球2個分の資源が必要ーWWF報告

農業情報研究所(WAPIC)

06.10.25

 世界野生動物基金(WWF)が24日、自然界の状態とそれに対する人間活動の影響を示す隔年報告書・”Living Planet Report”の2006年版を発表 した。現在の生活スタイルの維持のために既に地球1.25個分の自然資源を使っているが、この趨勢が続くと、今生まれた子が成人に達する頃(2025年)には地球1.6個分、その子が成人して間もなく(2050年)、地球2個分の自然資源が必要になるという。

 WWF’s 2006 Living Planet Report
 http://assets.panda.org/downloads/living_planet_report.pdf

 それは、利用できる最新ー2003年ーのデータに基づき、生物多様性の状態を示す”生きている地球指数”(Living Planet Index)と、人間の生物圏に対する需要を示す”エコロジカル・フートプリント”を計算したものだ。

 ”生きている地球指数”は、世界中の1313の脊椎動物種の集団の趨勢に基づいて計測された。脊椎動物は動物種のほんの一部をなすに過ぎないが、その集団の趨勢は生物多様性全体の典型例になると想定された。この指数は、1970年から2003年の間に30%ほど減少している(695種の陸棲動物で31%、344の淡水動物種で28%、274種の海水動物種で27%)。

 我々が利用する資源を提供し、また我々の廃棄物を吸収するために必要な生物的に生産的な土地と水域の面積で表されるエコロジカル・フートプリントは、2003年には地球全体の総計で141億ha、一人あたりでは2.2haだった。しかし、生産的面積または生物能力の総供給量は、それぞれ112億haと1.8haに過ぎない。需要が供給を25%上回っている。

 人間のフートプリントは、1961年に比べると3倍に増えた。1980年代に地球の生物能力を上回るようになり、この”オーバーシュート”ーエコロジカル負債ーは以後年々増加してきた。 この趨勢が続くと、人間は、2050年までには、地球2個分の自然資源を利用することになる(もしそれまでに資源が尽きてしまわなければ)という。

 フートプリントには、人間が消費する食料・繊維・木材を生産し、利用するエネルギーの生産で排出される廃棄物を吸収するために必要な作物用地、草地、林地、魚場が含まれる。とりわけ増加が著しいフートプリントは、化石燃料の利用からくる二酸化炭素で、1961年から2003年までに9倍に増えた(下図参照。2025、2050年は、現在の”通常のビジネス”が続くというシナリオの下での予測)。

 エコロジー負債は地域により大きく異なる。南米、アフリカの大部分の国、ロシア、オーストラリア等では生物能力がフートプリントを50%以上下回る。しかし、西ヨーロッパ、北アフリカ・中東、インド、中国、日本などは、フートプリントが生物能力を50%以上超えている。後者の負債が余りに大きく、前者の黒字を打ち消し、地球全体の負債をたらしている。

 一人あたりフートプリントが最大なのはアラブ首長国連邦で、次いで大きい順に米国、フィンランド、カナダ、クェート、オーストラリア、エストニア、スウェーデン、ニュージーランド、ノルウェー、デンマーク、フランス、べルギー・ルクセンブルグ、英国、スペイン、スイス、ギリシャ、アイルランド、オーストリア、チェコ、サウジアラビア、イスラエル、ドイツ、リトアニア、オランダ、日本、ポルトガル、イタリア、韓国などと続く。中国はなお平均より小さいが、今後これらの国のレベルに近づくだろう。人口の大きさを考えると、世界のエコロジー負債に甚大な影響を及ぼすだろう。

 それとは別に、水ストレスの指標となる地球上で利用可能(更新可能)な淡水の量に対する現実の水利用量の比率も計算された。特に灌漑のために河川水が利用できず、地下水を汲み上げている世界の多くの地域で、地下水位が低下している。米国西部、カナダ北部、南アジアの多くの地域での地下水位の低下速度は年に1mを超えている。世界的には、15−35%の灌漑水利用が持続不能になっていると推定される。

 報告は、「これらの指標のメッセージは明確で、緊急だ。我々は過去20年の生活スタイルを支えるために地球の能力を超えており、これをストップさせる必要がある。我々の消費と、再生し・廃棄物を吸収する自然界の能力とのバランスを取らねばならない。さもなければ、取り返すことができない損害を蒙るリスクがある」と言う。とりわけ、我々のエネルギー需要を満たすための化石燃料への依存が高まり続け、温室効果ガスの排出は今や地球全体のフートプリントの48%を占めるに至っていると、エネルギーの生産と利用の方法に注意を促す。

 なお、日本の一人あたりエコロジカル・フートは世界の2倍ほどで、二酸化炭素排出量が特に多いことがその主因となっている。また、木材・紙(森林)、魚(魚場)消費が多いことも、世界平均に比べてのフートプリントを押し上げているようである(下図 )。 ただし、絶対的には食用作物消費(作物地)の大きさいことも忘れてはならない。そして、国内自給の食料・木材・魚は半分程度でしかない。それが地球にとって何を意味するかは、言わずもがなだろう。

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