農業情報研究所

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イギリス:エネルギー白書サマリー(部分訳)

農業情報研究所(WAPIC)

03.2.26

 以下に紹介するのは、2月24日に発表されたイギリス「エネルギー白書」のサマリーの一部である。イギリス政府は、この白書で新たなエネルギー政策の枠組を打ち出したが、その背景や要因を知る上で有益と考えて紹介することにした。

1.1わが国は新たなエネルギー政策を必要としている。過去5年間の間に改善がなされたにもかかわらず、今日の政策は明日の挑戦には応じられないであろう。我々は気候変動の脅威に対処せねばならない。我々は英国の石油・ガス・石炭の生産の減少がもたらすものに対処せねばならない。それは我々を、エネルギーの輸出国ではなく、輸入国にする。そして、20年、あるいはそれ以上にわたり、多くのエネルギー・インフラストラクチャーを置き換え、あるいは更新する必要があろう。

1.2しかし、これらの挑戦とともに、新たな機会も生じる。より高い資源生産性−より少ない資源で、汚染を減らしながら生産する−がより高い生活水準と改善された生活の質に貢献する低炭素経済となることに向けて英国を決定的に転換させるための機会である。また、最先端技術を開発し、適用し、輸出する機会であり、これは新たなビジネスと職を創出する。さらに、世界のあらゆる場所で経済成長を支える環境的に持続可能で、信頼でき、競争的なエネルギー市場を発展させることで、ヨーロッパにおいて、また国際的に先頭に立つ機会である。

1.3 暖房と照明から輸送、工業、通信に至るまで、エネルギーは我々がなすことのほとんどすべてにとって必須のものである。我々は、それが望むときにいつでも利用でき、値段が手頃で、安全で、環境的に持続可能であることを期待する。近代的工業国が極度に複雑なエネルギー・システムにどれほど依存しているかを実感するのは、何か事態が悪化したとき−例えば、厳しい嵐の後に暖房や明かりなしに家族が放置されたとき、あるいはカリフォルニアで明かりが消えたとき−だけである。

1.4 1990年代まで、英国のエネルギー・システムは、大部分の多くの国と同様、大部分が政府により所有され、コントロールされていた。今日、英国は世界で最も開放的なエネルギー市場の一つをもつ。開放された競争的な市場は我々が必要とするエネルギーの配達に死活的な重要性をもつ。しかし、英国のエネルギー政策の全体的目標を設定し、我々のエネルギー市場とその他の政策がこれらの目標の達成を確保するのは政府の責任である。エネルギー生産者、投資家、ビジネス、消費者は、確信をもって計画でき、決定をなすこのできる明確で、安定した長期的枠組を必要とする。

1.5 我々がこの白書で述べる新たなエネルギー政策はこれを提供しようとするものである。それは、経済的、社会的、環境的な目標を同時に達成する方法の発見を我々に迫る持続可能な発展への我々のより広範な約束を反映し、また強固にする。

我々が直面する挑戦

1.6 我々が直面する最初の挑戦は環境に関係する。気候変動は現実のものである。気候変動の主要な原因の一つである大気中の二酸化炭素のレベルは、産業革命以来3分の1上昇し、現在はかつてない速さで上昇を続けている。これは気温上昇につながる。過去20年間に、地球は、大部分は人間活動からの温室効果ガスの増大に因り、0.6℃温暖化した。1990年代は、記録が始まって以来、最も暖かい10年であった。

1・7 気温上昇は我々の周辺の世界における次のような様々な変化を伴った。

■ キリマンジャロのような多くの山頂の氷冠が後退している、

 ■ 世界の平均海面レベルは、20世紀に年平均12o上昇した、

 ■ 夏と秋の極地の海氷は最近数十年で40%薄くなった、

 ■ 世界の雪の覆いは1960年代以来10%減少した、

 ■ 過去2030年の間にエル・ニーニョ現象が一層頻繁化し、強くなった、

 ■ [ロンドンを高潮の被害から守るために作られた]テームズ・バ リヤーの使用は、1980年代の2年に1回から過去5年間には年に平均6回に増えた、

 ■ 天候に関連したコミュニティーとビジネスへの経済的損失は、過去40年に10倍に増えた。

1.8 今世紀、排出を減らさなければ、地球の気温は過去1万年、あるいはそれ以上の期間のいつよりも速い速度で上昇しそうである。英国では、干ばつと洪水のリスクが高まりそうである。海面は上昇し、極度に高い水位は、今世紀末の西岸の一部で10倍から20倍の頻度となり得る。世界的規模では、結果は、特に一層夥しい数の人々が病気、飢餓、洪水のリスクにさらされそうな途上国で、破滅的になり得る。それに加え、[西欧の冬を暖かくする]メキシコ湾流の停止、あるいはそれが生じる確率は非常に低いとはいえ劇的な結果をもたらす西大西洋氷床の溶解のような大規模な変化のリスクもある。

1.9 我々は一定の気候変動から逃れることはできない。しかし、大気中の温室効果ガスが増加に任されるのではなく、安定化されれば、最悪の影響は回避することができる。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)とその京都議定書は、世界的な行動への合意が可能であることを示すが、はるかに多くのことがなされねばならない。英国は、引き続きリーダーシップを発揮するが、それだけでこの問題は解決できない。現在、英国は、世界全体の2%ほどの二酸化炭素を排出するにすぎない。我々の行動が協調的な国際的努力の一部をなすのでなければ、それは気候変動へのインパクトをもたないだろう。英国へのコストを引き下げ、我々の競争力が危機に陥るのを回避するために、より広範な努力、例えば技術変化の推進が必要である。

 従って、我々は、引き続き、変化の必要性をめぐるコンセンサスと、UNFCCCの枠内で世界の二酸化炭素排出を削減する行動の強固な約束を確立するために、他の国々と共同する。将来における英国の外交政策の中心的目標はこの野心への国際的約束を確保することであろう。我々は、引き続き、軽減されねばならない影響をもっと正確に予測できるように、気候変動の理解を発展させる必要もある。我々は気候変動研究に投資しており、これは我々のエネルギー政策に生命を吹き込む知識基盤の決定的土台であると認める。

1・10 我々の野心は、世界の先進経済が2050年頃までに温室効果ガス排出を60%削減することである。従って、我々は、英国が、二酸化炭素排出を、現在から2050年頃までに60%ほど削減する道を進むべきであるという「環境汚染に関するロイヤル委員会(RCEP)」の「2000年の」勧告を受け入れる。

 英国のエネルギー政策は、今まで、環境問題に十分な注意を払ってこなかった。我々の新たなエネルギー政策は、エネルギー、環境、経済成長が適切に、持続可能なように統合されることを確保する。この白書では、我々はこの目標を達成する最初のステップについて述べる。

1・11 我々は、多くの方法で、2050年までに排出を60%削減することができる。しかし、最後の瞬間まで行動を引き延ばすことは真面目な選択ではない。我々が今始めなければ、一層劇的で、一層破滅的で、一層高価な変化が後に必要になる。我々は、ビジネス、そして、一般的に職と技能基盤を含む経済が変化のための必要性に合わせてその枠内で調整できる枠組を提供するために、早期の、適切に計画された行動を必要とする。これは、例えば、ビジネスが通常の資本交替サイクルの途上で行動することを計画できるようにする。また、我々が直面する挑戦に応じるのを助けるための新たな技術の開発を助長する。

1.12 我々は、2050年までの60%排出削減の英国経済へのあり得る影響を慎重に分析した。このような長期の経済変動の調査においては、またなされる仮定が分析に大きな影響を与えることを考えれば、相当な注意が必要である。

 しかし、気候変動政府間パネル(IPCC)による広大な調査は、大気中の二酸化炭素濃度を550ppm以下に安定させるための行動は、先進諸国にとって、2050年における平均国内総生産(GDP)の1%前後の損失につながることを示唆している。しかし、この数字は、気候変動に関連したリスク、例えば洪水の減少によって相殺されるべきである。英国の分析の結果は、世界の主要工業国が共に行動すると仮定して、IPCCの調査と矛盾しない。英国の分析は、気候変動に有効に取り組むことのコストへのインパクトは非常に小さい−2050年において、そのときには現在に比べて3倍になっているであろうGDPで測られた国民の富のほんの僅かな部分(0.52%)に相当する。

1.13 第二の挑戦は、英国の国産エネルギー供給−石油・ガス・石炭−の衰退である。我々の現在の一次エネルギー(すなわち、例えば電気への加工前の)需要は下に示される(図−略)。既に、我々は使用する石炭の半分を輸入している。英国の経済的に存続可能な深鉱石炭の多くは10年以内に掘り尽くされそうである。2006年頃までには、我々はガスの純輸入国に、2010年頃までには石油の純輸入国」になるであろう。2020年頃までには、我々は一次エネルギー需要の4分の3を輸入エネルギーに依存することになる可能性がある。

1.14 我々はエネルギー純輸出国から再びエネルギー純輸入国になるのだから、世界の他の地域における規制の失敗・政治的不安定・紛争などが引き越す価格変動や供給中断に一層脆くなる可能性がある。しかし、エネルギー輸入国になることは、必ずしもエネルギー安定確保の達成が難しくなるということではない。主要工業国の中で、カナダと英国だけがエネルギー純輸出国である。その他はすべて、エネルギー輸入国として経済成長を達成してきた。我々も同じようにできる。まさに北海の石油とガス以前にそうしていたように。エネルギー安定確保の維持の最良の方法はエネルギー多角化であろう。我々は多くのエネルギー源、多くの供給者、多くの供給ルートを必要とする。更新可能な、小規模な、分散したエネルギー源−例えば熱電併給プラント、燃料電池−が輸入への依存の過剰を回避するのを助けるし、安全保障への脅威を減らすことができる。

1.15 ノルウェーは、来るべき10年、ガス輸入の主要供給源となろう。しかし、我々はロシア、中東、北アフリカ、ラテン・アメリカなど、他にも供給を求める必要がある。このエネルギー貿易は、相互依存関係−これら諸国にとって、エネルギーは、収益源として、我々にとってと同じほどに重要である−にかかわる。増大する相互依存は、信頼できるエネルギー供給の確保はヨーロッパと外交政策の役割がますます重要になることも意味する。我々は、世界の石油とガスの大部分を供給する地域−ロシア、中東、北アフリカ、ラテン・アメリカ−における地域安定、経済改革、開放的で競争的な市場、適切な環境政策の促進のために国際的に行動する。我々は、既に、2004年までに工業のための、2007年までに全体的な、EUにおけるエネルギー自由化への約束を確保した。これは、我々の多角的供給源へのアクセスを改善するためにだけでなく、英国企業がより広大な市場で競争するためにも、決定的に重要である。

1.16 第三の挑戦は、来るべき20年間に、多くの英国のエネルギー・インフラストラクチャーを更新する必要性があることである。1990年代には、発電能力、特にガス燃焼工場についての大きな新規投資があった。これは高い電力価格と当時の市場構造への対応であった。以来、ある発電能力は閉鎖され、更新可能なものを除く新たな工場建設の利益は減退した。しかし、先を見れば、一層の変化が展望される。炭素排出を抑制したり、大気の質を改善するヨーロッパの措置は、大部分の旧い石炭発電所の更新か、閉鎖を強要することになりそうである。電気生産における核発電のシェアは、新たな建設や寿命の延長がないために、現在のレベルから縮小するであろう。2025年までには1工場だけが操業することになろう。そして、更新可能なエネルギーは、我々が気候変動に挑戦しようとしているのだから、一層重要な電力源となろう。わが国の現在の発電の構成は次のとおりである(図−略)。

1.17 将来にわたり、エネルギー・インフラストラクチャーの他の部分でも、大きな投資が要請される。配電網−大規模な、集中した発電所から消費者への一方通行の送電のための−は、しばしば国の周辺部あるいは沖合いにある更新可能な発電施設や、家庭や企業の小規模で、分散した発電施設、時には送電線網から電気を引き、ある時には逆にこれに電気を送るこれら施設に適応したものにする必要がある。我々はガスの純輸入国になることに合わせ、一連の源泉からパイプで送られる天然ガスと液化天然ガス(LNG)の供給への追加連結を必要とするであろう。長期的には、我々は様々な自動車燃料に向かう可能性があるから、燃料配給インフラストラクチャーにおいても大きな投資が必要になるであろう。