資料:米国エタノール産業の経済的存続可能性 採算の取れない原料価格レベル

農業情報研究所(WAPIC)

09.1.7

  原油−エタノール価格の急落にもかかわらず生産コストの大半を占める原料トウモロコシの価格の下げ止まりで、米国エタノール産業が瀕死の状態にある(米国エタノール ”希望から籾殻に” 株価暴落でゲイツも一夏で37億円の大損,08.10.23)。米国トウモロコシ・エタノール産業は経済的に存続可能なのだろうか。ここに、この問題を考えるための一つ材料を提供しておきたい。

 商品価格のダイナミックな変動を考慮に入れた最近の一研究*は、米国におけるトウモロコシ原料エタノールと原油の価格の様々な組み合わせに基づくエタノール生産の損益分岐点を計算した。その分析は、エタノール生産の経済的存続可能性にとって、原料(トウモロコシ)と原油の相対価格が極めて重要であることを明らかにした。

 *Tyner, W.E. & Taheripour, F. 2008. Policy Options for Integrated Energy and Agricultural Markets, Paper presented at the Transition to a Bio-Economy: Integration of Agricultural and energy Systems conference on February 12-13, 2008 at the Westin Atlanta Airport planned by the Farm Foundation.
  参照:http://www.fao.org/fileadmin/user_upload/foodclimate/HLCdocs/HLC08-inf-1-E.pdf,p.8

 この研究によると、下の図に示されるように、例えば原油価格が60ドル/バレルの場合には、トウモロコシ価格が2ドル/ブッシェル(減税やその他の奨励金などの助成がない場合、助成がある場合は3.62ドル/ブッシェル)以下ならばエタノール生産の採算は取れる。原油価格が100ドルならば、トウモロコシ価格が4.14ドル(5.74ドル)に上昇しても採算が取れる。

 

  この分析結果を適用して筆者が推算した現実の原油価格に対応するトウモロコシの損益分岐点価格と、現実のトウモロコシ価格の動きを比較してみたのが次の図だ。

 

 トウモロコシ価格がほぼ4ドルから7.5ドルの間で推移した08年、現実のトウモロコシ価格は、政府助成なしでは常に採算価格を上回っている。政府助成があるためにのみ経済的に成り立ってきたが、原油価格が急落したけれどもトウモロコシ価格が4ドルあたりで下げ止まった11月以降、エタノール生産は完全に赤字に転落したことが示されている。

 トウモロコシ価格は4ドルでほぼ底をついたと見ることができる。バレル40ドルも割り込んだ原油価格の今後の動きは読みにくい。イスラエルのガザ侵攻がもたらす中東の政情不安が急騰を招く可能性もないではない。ただし、いずれにせよ、原油価格上昇は、当分は僥倖だのみだ。予見できるかぎりの将来、米国エタノール産業に明るい見通しは開けない。