農業情報研究所

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燃料電池がオゾン層を破壊ー新研究

農業情報研究所(WAPIC)

03.6.24

 水素を直接エネルギーに変える燃料電池の開発に世界の大企業が凌ぎを削っている。化石エネルギーに頼ることなく水素を作る問題など、ハードルはなお高いが、温室効果ガスの排出量を劇的に減らし、窒素酸化物、一酸化炭素、炭素微粒子などの汚染物質も削減するとの期待から、燃料電池車開発競争が熾烈になっている。米国ブッシュ大統領は、そのために12億ドルの支援を約束している。

 ところが、カリフォルニア工科大学のユン教授等の研究チームが、燃料電池はオゾン・ホールを広げる可能性があるという新たな研究を発表した(NaTrompme, T. K., Shia, R.-L., Allen, M., Eiler, J. M. & Yung, Y. L. Potential environmental impact of a hydrogen economy on the stratosphere. Science, 300,1740 - 1742, (2003))。

 これは水素が大気中に漏れ出すことからくる。研究チームは、すべての人造水素の10%ほどが生産・貯蔵・輸送の過程で漏れ出すと推定した。燃料電池から毎年大気中に漏れ出す人造水素は6千万トンと計算される。これは現在のおよそ4倍に相当する。これに天然の水素が加わり、大気中に放出される水素の量は現在の2倍になる。水素は大気中を急速に上昇して成層圏に到達、酸素と反応して水になる。成層圏の水分が増し、特に極地の成層圏低層を冷してほとんどの水素が水蒸気に変わる。こうして、すべての化石燃料エネルギーが燃料電池に取って代えられると、オゾン・ホールは北極で8%、南極で7%拡大する可能性があるという。

 しかし、これが現実に起きるかどうかは燃料電池導入の速度にかかわる。オゾン層破壊の主犯とされて、生産と利用を規制されたきたCFCの大気中への集積は減っていく。燃料電池が広く使われるようになるのが50年後とすれば、CFCはほとんど消滅しており、オゾン層破壊は問題にならない。他方、生産・輸送過程での水素漏れも減っているだろうという。

 参照:Hydrogen fuel could widen ozone hole,Nature-News,6.13