食料・環境への悪影響なしで達成できるのか 輸送用燃料の10%をバイオ燃料にのEU目標

農業情報研究所(WAPIC)

07.2.17

 15日に開かれたEUエネルギー担当相理事会が、2020年までに輸送用燃料の最低10%までを植物を原料とするバイオ燃料に置き換えることを義務づけると決めた。

 2782nd Transport, Telecommunications and Energy Council meeting - Brussels, 15.02.2007 (provisional version),07.2.16

 しかし、こんなことが食料や環境を犠牲にすることなくどうしたら実現できるのだろうか。フランス農水省統計研究局(Agreste)は既に、、植物由来バイオ燃料の比率を2010年までに7%にまで高めるフランス政府の目標を達成するためには、現在食料生産に使われている耕地のうちの少なくとも70万fを燃料用作物生産に転換する必要があるとする研究を発表している(フランス バイオ燃料目標達成のために70万haの食料用耕地が犠牲の計算,06.11.22)。

 OECDの研究によると、現在の作物収量とバイオ燃料生産技術を前提にするかぎり、輸送用燃料の10%をバイオ燃料に置き換えるために必要な土地は、現在の穀物・油料種子作物・砂糖作物収穫面積に対する比率で、米国で30%、カナダで36%、EU15ヵ国で71%にもなるという*

 米国ブッシュ大統領が年頭教書で打ち出した米国の10年で20%の目標など夢の夢だ。そのためには現在の7倍ものバイオ燃料ーほとんどすべてがトウモロコシを原料とするエタノールーが必要になるが、2006年の19億リットルの生産量だけでも、原料トウモロコシの価格は畜産農家(米国内だけでなく、海外の農家も)を代替燃料探索に狂奔させるだ けでなく、エタノール生産自体の採算も危うくし、エタノール工場建設計画のキャンセルまで相次ぐほどに高騰している。

 しかし、10%という目標を達成するために必要となる土地の面積から考えれば、EUの目標はさらに夢の夢ということになる。それは、現在の耕地・休耕地のみならず、土壌保全や洪水防止など環境保全機能の重要性がますます高まっている牧草地にも食い込むだろう。それでも足りない。

 それに引き換え、ブラジルのこの数字はたった3%で、世界中の国が10%目標を達成するために必要とするエタノール(専らサトウキビを原料とする)を十分供給できるというから、米国もEUも、目標達成のためには日本と同様にブラジルからの輸入に頼る ことになる。ところが、エタノールブームによるブラジルのサトウキビ・モノカルチャー・プランテーションの拡大は、既にセラードの豊かな生物多様性を破壊し、牧畜を森林地帯に追いやることでアマゾンの森林破壊を助長し、多様な食用作物を作る小農民の駆逐や奴隷労働に近い労働条件下に置かれる労働者の増加まで引き起こしている**

 バイオ燃料の開発と増産が農業・農村に新たな経済・雇用機会を与える潜在力を持つことは認める。しかし、現在のような専ら農産商品を原料とする燃料の生産拡大が先行するかぎり、人間社会と環境への悪影響が好影響を上回ることは避けられそうにない。

 *OECD Working Party on Agricultural Policies and Markets,Agricultural Markets Impacts of Future Growth in The production of Biofuels,AGR/CA/APM(2005)24/FINAL,01-Feb-2006,p.15.

  **Kelly Hearn,Ethanol Production Could Be Eco-Disaster, Brazil's Critics Say, National Geographic,07.2.9
     http://news.nationalgeographic.com/news/2007/02/070208-ethanol.html?source=rss}
     WWF Action for Sustainable Sugar
     http://www.wwf.de/fileadmin/fm-wwf/pdf-alt/landwirtscgaft/WWF_Action_for_Sustainable_Sugar_05.pdf

     The WTO and the Destructive Effects of the Sugarcane Industry in Brazil,Land Research Action Network (LRAN),06.2.13
     http://www.landaction.org/display.php?article=405