ブラジル・アマゾンのサトウキビ農園 警察の手入れで1000人の”奴隷”労働者解放

農業情報研究所(WAPIC)

07.7.4

 英国・インディペンデント紙によると、ブラジル・アマゾンのサトウキビ農園(プランテーション)に対する警察の手入れで、1000人以上の”奴隷にされた”労働者が解放された。

 ブラジル当局者は、北部・パラ州の労働者がエタノール生産のためのサトウキビを刈り取る1日14時間の恐るべき労働条件を強制されていたと言う。警察の発表では、これは借金奴隷制と闘う今までで最大の手入れだ。借金奴隷制とは、貧しい労働者が辺鄙な農村地域におびき出され、食料から輸送まで、あらゆるものに法外の値段を請求するプランテーション所有者からの借金に追い込まれた年季奉公労働を彷彿させる慣行という。

 ブラジル最大のエタノール生産者の一人であるこのプランテーションのオーナーは容疑を否認しているというが、この手入れは、まさに、エタノール・ブームの暗黒面を暴き出した。

 Brazilian ethanol 'slaves' freed in raid on plantation,The Independent,7.4

 主に鉄鋼産業のための木炭製造や作物栽培のための森林刈り払いに使われる莫大な数の借金奴隷がアマゾン地域に存在し、摘発されるのはごく一部、摘発されてもたった1週間入獄するだけで済むといった実態は、最近のインター・プレス・サービス(IPS)の記事が克明に伝えている。

 BRAZIL: New Lives for Victims of Slave Labour,IPS,7.3
 RIGHTS-BRAZIL: Freeing Modern-Day Slaves,IPS,7.2

 Land Research Action Networkに寄せられた報告によれば、ブラジルのサトウキビ部門の拡張と機械化で、サトウキビ農園における現代版奴隷労働が増えている。これら労働者の多くが、まさに借金で奴隷的境遇に置かれることになった移住労働者たちだ。

 機械化は、[マチェーテ=ナタを使う場合よりも]地面に近い場所でのサトウキビの刈り取り(蔗糖濃度を高める)や刈り取られた茎の整頓といった新たな要求を生み出した。地面は平坦でなく、サトウキビは不規則に植えられているから、刈り取りは機械化によって一層難しくもなった。ところが、機械化を理由に一日に刈り取るノルマは増えた。

 80年代には一人一日あたり6トンだったが、90年代には10トンになり、今では12トンから15トン刈り取らなければならない労働者もいる。このノルマが達成できなかった者は解雇され、その名が様々な工場に通知され、次の収穫期の仕事にありつけない。これが1日14時間労働にもつながるのだろう。

 過労と適切な食事の欠如のために畑で死ぬ労働者も数多いが、会社の雇われ医は、彼らは”怠け者(lazy)”だから助ける必要はないと言っているという。

 The WTO and the Destructive Effects of the Sugarcane Industry in Brazil,06.2.13

 現在、政府の援助なしで化石燃料と競争できるバイオ燃料は、ブラジルのサトウキビを原料とするエタノールだけという。それは生産性が高い注)からだけではない。原料生産コストを最小限に引き下げる”奴隷的”労働があるからだ。

 インディペンデントに戻ると、ルラ・ブラジル大統領は5月、”サトウキビ部門の人道化を論議するために”エタノール産業のリーダーと労働者を結び合わせると約束した。ブラジルのエタノール生産者を”国と世界の英雄”と呼んで国内の批判を浴びたためという。

 注)原料作物栽培地1fあたりのエタノール収量は、ブラジルのサトウキビで6800リットル(06/07年)、米国のトウモロコシで3000リットル(05/06年)、EUの穀物で3125リットル、テンサイで7250リットル(05年)となっている。

   Marcos J. Jank et al.,EU and U.S. policies on Biofuels:Potential Impact on Deveroping Coutries,The German Marshall Fund of the United states,07.5
   http://www.iconebrasil.com.br/arquivos/noticia/1352.pdf

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