キューバ 燃料用バイオエタノール生産は禁制 更新可能エネルギー開発の独自路線

農業情報研究所(WAPIC)

07.6.6

  世界中が車を走らせるためのバイオ燃料の生産・利用に狂奔するなか、カストロ議長が食料安全保障を危険に曝すとバイオエタノールの大規模生産に反対するキューバが、独自の更新可能なエネルギー源の開発に力を注いでいる。

 かつてキューバが世界一の生産量を誇り、今やブラジルを世界で群を抜く燃料用バイオエタノールの大生産国にのしあがらせた砂糖は、依然として、人間と動物の食料を生産し・バガスーサトウキビの茎からの砂糖抽出の繊維質副産物ーから発電し・アルコール、さらには医薬品まで生産することにできる国の戦略産業部門をなしている。しかし、燃料用エタノール生産の拡大は禁制だという。

 最近のインター・プレス・サービス(IPS)の報告が伝えている。

 CUBA: Sugarcane - Source of Renewable Energy, But Not Ethanol,IPS,6.1
 http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=38006

報告によると、砂糖産業が最高潮の時代、サトウキビキューバの発電量の10%を生み出した。しかし、砂糖産業が縮小した近年はこの比率が大きく低下、2002年の間に5.6%になった。2002年には、およそ1ポンドあたり6セントにまで下がった国際砂糖価格に合せて生産レベルを調整するために、国の156の製糖工場の半分を閉鎖する大規模な砂糖産業リストラが行われた。

とはいえ、キューバの専門家は、サトウキビ・バイオマスは、なお第一の更新可能なエネルギー源にとどまっているし、エネルギー生産が分権化され、エネルギー源が一層多様化するであろう将来も、重要な更新可能エネルギー源の一つをなすだろうと言う。

リストラを生き残った大部分の製糖工場は、なお国の電力網に販売するほどの余剰電力は生産していないとはいえ、工場が必要とする電力を自給するための施設更新に懸命だ。専門家は、発電効率化のための技術変革への投資がなされねばならない、問題は操業する工場の数ではなく、その品質にあると言う。

しかし、 アマゾンの森林破壊や小農民の土地取り上げによる土地集中を加速し、過去のプランテーション奴隷労働の現代版に息を吹き込んでいるなどの批判を蹴散らして”緑のサウジアラビア”を目指すルーラ大統領のブラジル (G8-BRAZIL:Guest Brings Biofuel Arguments to Summit,IPS,6.5)とは対照的に、サトウキビ生産の拡大には慎重だ。専門家は、その計画はあるが、農業に大きな影響を与える気候変動に対処する最善の方法を研究を始めねばならないと言う。気候変動に伴って増大する気象災害のリオクを最小限にとどめるためには、かつてのようなサトウキビ・モノカルチャーの容易な拡大は許されないということだろう。5月半ばに終わった今年の収穫は、季節はずれの雨で、不作だった昨年と同様の120万トンに落ち込んだ。

製糖工場やアルコール蒸留施設から出る有機廃棄物の嫌気性消化や発酵で生産されるバイオガスは、調理や発電のために利用できる低コストの更新可能なバイオ燃料だ。同時に、この過程は、肥料や魚・鶏の飼料として使用できる副産物も生み出す。

バイオガス発電・1キロワットのコストは、化石燃料発電の4分の1だ。加えて、バイオガスは環境中に重金属やその他の有毒物質を放出しない。アルコール産業が生産する残滓は環境を汚染するとはいえ、このような廃棄物のバイオガス生産への利用を可能にする技術はあり、これは蒸留工場自体で使用される化石燃料に置き換えられる。

更新可能なエネルギーの促進団体・Cubasolar の会長は、”バイオガスにはいくつかの用途があるが、その最も重要な側面は国の砂糖工場やコーヒー工場による汚染削減への影響だ”と言う。彼は、既に水力発電、太陽光発電を利用し、風力発電利用にも関心を向けるこの国が今必要としているのは、このような代替エネルギー源の一層の開発だと言う 。

1年前のハバナでの国際会議で、砂糖産業指導層は、様々な手段で廃棄物を利用する11の蒸留施設の近代化と7つの施設新設を含む野心的なアルコール産業拡大計画を発表した。この計画は、国内及び輸出市場でガソリンに混合される無水アルコールを含むアルコールの生産を増強することを目指すものだった。しかし、燃料用エタノール生産計画は禁制となった。これは、バイオ燃料の大規模生産への食料作物の利用は食料安全保障を危険に曝すというカストロ議長の強硬な反対のためだ。

先週の更新可能なエネルギーに関する会議で、キューバ科学アカデミーのメンバーであるコンラッド・モレノ氏は、11の蒸留施設の更新で、主にラムと医薬品の生産に使われるアルコールの生産量が年に15000万リットルに増えるが、“このエタノールは燃料生産には向けられない。キューバには[燃料用エタノールの]大規模生産は決してなかった”と語ったという。 

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