土壌から食料や原料植物自体の生産能力を奪う第二世代バイオ燃料

農業情報研究所(WAPIC)

07.8.3

 バイオ燃料熱に浮かされてすっかり理性を失った見本のような例がまた現れた(マスコミにも広がる食料と競合するバイオ燃料への疑念 が、食料と競合しなければよい?,07.5.14)。

 「神戸大学の近藤昭彦教授は、トウモロコシの葉、茎などこれまで廃棄していた材料から従来の約二倍の生産量で自動車の燃料となるエタノールを作る技術を開発した。・・・・・・実を使わないため食料需給に悪影響を与えない。バイオ燃料を扱う企業へ技術移転を進める」という(「バイオエタノール生産 葉・茎から倍の効率で 神戸大、食料需給に影響なし」 日本経済新聞 7月3日 朝刊 テクノロジー面)。世界中が血道を上げる”第二世代バイオ燃料”研究の最新成果ということだろう。

 しかし、実や葉や茎の生産基盤は土壌だ。常に有機物が補給され続けない土壌は団粒構造を失って砂地となり、実や葉や茎の生産能力を失う。ところで、葉、茎などは土壌有機物の重要な補給源だ。それがすべてバイオ燃料となって燃やされてしまえば、有機物の補給源はなくなり、食料はもちろん、バイオ燃料原料を育てる土壌さえもが消滅に向かう。葉や茎からエタノールを作る技術はあっても、いやあるからこそ、葉や茎そのものが生産できなくなってしまう。

 何度も引用するが、今年の国連バイオ燃料影響評価報告(国連バイオエネルギー影響評価報告 バイオ燃料産業急拡大に警告,07.5.10)は、「(作物残滓を含む)原料品全体が利用できる第二世代燃料については、収穫物の一定割合を畑に残すように農民を説得するのは困難だろう」(p.44)と言う。 化学肥料全盛で土に返される作物残滓は減っており、世界中の土壌の有機物が減少傾向を辿っているが、葉や茎がバイオ燃料原料として売れるなら、これを土に戻す農民など 、ますますいなくなるだろうということだ。それは、新たな土壌有機物の形成による土壌の炭素の吸収能力を減らし、土壌を炭素排出 源に変えることで、地球温暖化の加速にも結果する。

 ”農学部”を失い、”バイオ”に洗脳された近頃の大学には、こんな基礎的農学知識も持たない”専門馬鹿”しか残っていないようだ。こんな教授連を養うために雀の涙ほどの年金からどうして税金を払わねばならないのか、どうしても合点が行かぬ。というより、実に腹立たしい。

 自動車バイオ燃料の研究に血道を上げる研究者は、国連報告の次の結論をよく噛み締めて欲しい。

 「現在の研究は、輸送またはその他の燃料としてよりも、熱電併給のために生物資源を利用するのが、今後10年における温室効果ガス排出削減のための最善にして、最も安上がりの方法だと結論する」(p.49)。