メキシコ大統領 バイオ燃料法に拒否権 食料作物からのエタノールに反発

農業情報研究所(WAPIC)

07.9.16

  メキシコ大統領が今月1日、4月に議会が承認したバイオエネルギー法を拒否したということだ。この法律は、”海草、バクテリア、酵素、セルロース”など、新たなバイオ燃料技術を考慮することなく、トウモロコシ、サトウキビからのエタノール生産に重点を置きすぎているというのが拒否の理由という。当然ながら、食料作物のバイオ燃料生産への利用は世界の食料安全保障を脅かし、国際食料価格を押し上げるという批判の声の高まりに配慮したものだろう。

 議員でもある政治的圧力団体・全国農民同盟の会長は、拒否が撤回されなければ、農業団体と当局者による2年間の法案策定の努力が無駄になると警告している。エネルギー省担当者によると、議会が承認した法律は、国有石油会社・メキシコ石油が生産する燃料に、毎日260万リットルのエタノールを付け加えることを計画していた。

 Mexican President vetoes biofuel law,SciDev,9.14

 食料との競合を理由に大統領が拒否を貫けば、メキシコのバイオ燃料生産拡大計画は頓挫せざるを得ないだろう。トウモロコシ、サトウキビ以外の原料(基本的には廃棄物バイオマス)からのいわゆる第二世代バイオ燃料の大量生産は当分無理だからだ。

 現在のバイオ燃料への突進は食料価格の高騰と自然ハビタットの破壊につながると補助金廃止を主張した最近のOECD非公式研究報告(OECDの研究 バイオ燃料補助金廃止を求める 温室効果ガス削減には非効率、生態系損傷も,07.9.11)も、第二世代バイオ燃料技術はなお”デモンストレーション段階”にあり、仮に技術発展が見られたとしても、廃棄物のバイオマス原料としての大規模使用の実施可能性には深刻な疑問があると結論している。

 大量生産施設にバイオマス物質を輸送する物流の問題が生産コスト引き下げの限界を作りだす。従って、第二世代バイオ燃料は、廃棄物ーバガス(サトウキビ圧搾のセルロース残滓)や木材加工残滓などーが出る工場自体で生産されねばならず、”ニッチなプレーヤー”(同報告書、p.5)にとどまるだろうと言う。

 同報告書が言うように、食料作物を原料とするバイオ燃料(第一世代バイオ燃料)でさえ、ほとんどの場合、”補助金”や”関税保護”なしの経済的生産は成り立たないのだから、これも当然だ。世界的巨大企業のバイオ燃料への突進は、事あるごとに”自由化”、”改革”を主張する有力国政府の手厚い保護(の約束)が引き起こしているにすぎない。