ノーベル賞化学者 バイオ燃料作物栽培は想定以上のN2Oを排出 温暖化を加速する恐れ 

 農業情報研究所(WAPIC)

07.10.3

  ノーベル賞化学者のポール・クルッツェン氏が率いる新たな研究が、バイオ燃料の生産と利用の拡大は温室効果ガスの排出を減らすよりも増やす恐れがあることを発見したという。新たな研究によると、最も普通に使われるバイオ燃料作物の栽培は、強力な温室効果ガスである窒素酸化物(N2O)を以前考えられていた以上に放出する。このようなバイオ燃料の利用は化石燃料を使わないことからくる利益を一掃し、多分、地球温暖化に寄与することになるという。これは、化学ロイヤル・ソサイエティーのニュースが伝えている。

 Biofuels could boost global warming, finds study,Royal Society of Chemistry,9.21

 このニュースによると、窒素酸化物とオゾン層に関する研究業績で有名はクルッツェン氏は研究が公刊される前のコメントを控えているが、この研究は、微生物が肥料中の窒素を、以前考えられていた以上にーIPCCが使用している広く受け入れられた2%という数字を大きく上回る3%から5%−N2Oに転換する。

 この数字を使って計算すると、ヨーロッパのバイオ燃料の80%を占める菜種ディーゼルについては、N2O排出による温暖化効果は、化石燃料節約による温暖化抑止効果の1倍(同等)から1.7倍になる。米国で支配的なトウモロコシ・エタノールでも0.9倍から1.5倍となり、サトウキビ・エタノールだけが0.5から0.9で、辛うじて温暖化抑止に働き得るという。

 IPCCのN2Oへの転換率は植物実験のデータから得られたものだ。新たな研究は、大気中のN2Oの総量を計算するために、以前のように植物栽培実験からではなく、大気測定とアイスコアのデータを利用する別の方法を取った。そして、自然現象から生じるN2Oを量を計算に入れるために、化学肥料が利用される前の前工業化時代のN2Oのレベルを差し引いた。残りのN2Oが肥料利用により新 たに固定された窒素と過程し、世界で施用される肥料の量を知ることで、肥料のN2Oレベルへの寄与度を計算した。この結果は、IPCCの再考を迫るに十分だという。

 この方法に批判的な専門家もいるというが、それでも、バイオ燃料の利用で温室効果ガスの排出が削減できると無条件に前提することは、今までの研究からしても許されなくなっている。先のOECD報告(OECDの研究 バイオ燃料補助金廃止を求める 温室効果ガス削減には非効率、生態系損傷も,07.9.11)の起草者も、クルッツェン氏の研究は、バイオ燃料の正確な全ライフサイクル評価の確立の重要性を際立たせる、「それなしでは、政府の政策は様々なバイオ燃料の間の違いを知ることができず、問題を一層悪化させる危険がある」と語ったという。

 わが国内閣の地球温暖化対策推進本部は、国内における温室効果ガス排出削減のために、バイオ燃料の普及を目指す経済的支援策を取り入れる方向を決めたという(日本農業新聞、10.3、2面、またはバイオ燃料に支援 農産物需要拡大を期待/地球温暖化対策推進本部 )。どんな作物(植物)を、どんな方法で、どれほど作れば、どれほど温室効果ガス排出 に変化がもたらされるのか、あるいは経済的・社会的・環境的に見ていかなる形態のバイオエネルギーが最も望ましいか、このような決定をする前に行わねばならないとFAO(国連バイオエネルギー影響評価報告 バイオ燃料産業急拡大に警告,07.5.10)やOECDが強く勧告するこれら評価などまったく行った形跡はない。

 石油の海外依存の削減や温室効果ガス排出削減への寄与などほとんど考えられない輸送用燃料のたった1%のバイオ燃料を生産するだけでも、世界中の食料価格を高騰させ、モノカルチャー・トウモロコシの増産で工業的農業による環境破壊や水不足を加速している米国の現状から何を汲み取っているのだろうか。食料生産や環境に悪影響を与えることなく、温室効果ガス排出削減に意味のあるほど貢献できるバイオ燃料を国内生産、あるいは輸入できると考えているとすれば、世界の経験から何も学んでいないと言わねばならない。

   (FAO評価報告が言うように、現状では[一部途上国や欧州諸国で見られるような]地域レベルでの熱電併給へのバイオマス利用が最も有益だ。現在のバイオエネルギーの問題の根源は、支配的バイオエネルギーが巨大企業の営利事業の対象であり、国民的市場・世界市場で流通する自動車用液体燃料になってしまったことにある)