食料不足に直面するスワジランド 米国バイオ燃料会社に広大な原料作物栽培地を配分

農業情報研究所(WAPIC)

07.10.27

 100万の国民の40%が厳しい食料・水不足に直面するアフリカ・スワジランドの政府が今週、自動車燃料用バイオエタノールを生産するためのキャッサバを栽培する数千ヘクタールの土地を米国エタノール製造会社に配分すると発表したそうである。

 SWAZILAND: Food or biofuel seems to be the question,IRIN,10.25

 このキャッサバ・プロジェクトの対象地は、この15年間にわたり干ばつに見舞われてきた国東南端に位置するラブミサ、ラブミサがあるシセルウェニ地方の一農業普及員は、ここの農民の大部分は小土地保有農民で、あまりに貧しくて灌漑のための資機材も買えない、干ばつ耐性の作物、つまりキャッサバを勧めても、何年も不作が続くトウモロコシ以外は決して栽培しようとしないと言う。

 プロジェクトの目的は、生産されるエタノールを海外市場で販売、地域に700の雇用を創出して農民の貧困を軽減し、食料は購入に頼るということのようだ。先ごろアフリカ諸国を歴訪、バイオ燃料による経済開発と輸入石油依存軽減を説いて回ったルラ・ブラジル大統領に洗脳されたかのようだ。しかし、これは国の農地をどう使うべきかに関する論争を改めて呼び起こし、バイオ燃料からの収入よりも食料安全保障を優先すべきだという批判の声が上がっているという。

 批判者は、食料よりもサトウキビのような”換金作物”を栽培するために協同組合を作れと小農民に奨励した90年代の政府の努力が見事に失敗した例を引き合いに出す。3年前からの砂糖価格の下落で 協同組合は破産した。2005年に解散した組合の一員は、市場向けの野菜を栽培していたら、まだ事業が続いていただろうと言う。

 食料価格が高すぎる、エタノールに使うカネがあったら、ラブミサの畑で食料を栽培するための灌漑に投資せよと言う食料援助従事者もいる。

 ただ、食料危機を恐れる議員はほとんどいない。地元紙は、「世界食料計画(WFP)その他が食料を供給するかぎり、差し迫った問題はない」とコメントしているという。

 先の普及員は、いつまでも援助に頼ることはできない、聞くところでは、援助供与者は、我々が自分の持つ資源を自分自身のために何故もっと利用しないのか訝っている、と言う。

 世界的穀物価格高騰で、貧しい国の食料買い入れは既に困難を増している。価格高騰で、援助のために買い入れられる食料さえ減らさざるを得なくなっている(As U.S. Food Dollars Buy Less, International Agencies Differ Over How to Use Aid,The New York Times,07.10.3)。普及員の懸念は現実のものとなるだろう。

 しかし、バイオ燃料は、過去の失敗も、このような懸念も、すべて忘れさせる魅力的な新”商品”となったようだ。 国連あげての忠言(国連バイオエネルギー影響評価報告 バイオ燃料産業急拡大に警告,07.5.10)も、まったく効かない。 国連食糧への権利特別報告者・ジーグラーは、”バイオ燃料は人類に対する犯罪”と叫んでいるが(Biofuels 'crime against humanity',BBC News,07.10.27)、これも”優先席付近では携帯電話の電源をお切りください”、”お年寄りや体の不自由なお客様、妊娠中や乳幼児をお連れのお客様がいらっしゃいましたら、席をお譲りください”といった最近のJR電車車内放送ほどの効き目 しかなさそうだ。

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