国際慈善団体 バイオ燃料を攻撃 小農民の土地を強奪 植民地拡張時代を偲ばせる

農業情報研究所(WAPIC)

07.7.2

  バイオエタノールやバイオディーゼルなどのバイオ燃料で走る車が排出する二酸化炭素は、それらを生産した過程で吸収されていたものだから、このようなバイオ燃料の利用は地球温暖化の抑制に貢献する。バイオ燃料は各国が自身で生産できるから、エネルギー自給にも貢献する。それは作物の新たな市場を作り出すから、農民・農村の利益にもなる。さらに、貧しい国に豊かな新輸出市場へのアクセスも提供するだろう。

 国際チャリティー団体・Grainが先月末、バイオ燃料について描かれるこのようなバラ色のイメージが、カーギル、ADM、モンサント、シンジェンタ、ブリティッシュ・ペトロゥリアム、デュポンなどをはじめとするアグリビジネス・バイテク・エネルギー・自動車等の大企業のバイオ燃料ビジネスへの参入により木っ端微塵打ち砕かれているという新たな報告を発表した。このような虚像を与える”バイオ”燃料の用語自体も再考せねばならない。ラ・ヴィア・カンペシーナが提唱するように ()、車を走らせるための燃料の製造に農業を使う実態を反映する”アグロ”燃料に改めよと言う。

 報告は、@Stop the agrofuel craze!、AThe new scramble for Africa、BAgrofuels in Asia: Fuelling poverty, conflict, deforestation、CAgrofuels in Latin America、DCorporate power: Agrofuels and the expansion of agribusinessの5部からなる。その全貌はここでは報告できないが(機会があるごとに少しずつ報告したい)、以下に、今まで余り伝えてこなかったアフリカの状況をAから抜粋して紹介しておく。 


 企業やエネルギーに飢えた国々がアグロ燃料作物生産のためにアフリカへの投資を進めており、ヨーロッパの最初の植民地拡張を偲ばせる土地ラッシュを燃え立たせている。この外部からの侵入にアフリカ諸国の政府とビジネス・エリートが加わる。

 ヨーロッパ、日本、米国はもちろん、新興国も手を出している。ブラジルは、セネガルからナイジェリア、モザンビークからアンゴラに至る広範なアフリカ諸国とエタノール輸入や技術移転の協定を結んだ。インドは”西アフリカバイオ燃料基金”への2億5000万ドルの提供を約束、中国は国内エタノール工場のため、ナイジェリアからの長期的キャッサバ供給チャンネルを確保した。

 アフリカには、典型的には地方で利用する油と石鹸の両方を生産するNGO主導の小規模バイオ燃料プロジェクトが多数あり、アグロ燃料唱道者はこのようなプロジェクトを推奨することが多いが、現在のアグロ燃料ブームは小規模農業とはほとんど無関係だ。

 ケープ・タウンのアグロ燃料会合で、英国・”グリーンエネルギー”のアンドリュー・オゥエンス最高経営責任者は、”南部アフリカにはバイオ燃料の中東と言ってもよい潜在力がある”が、政府は地域全体でアグロ燃料政策を標準化し、産業が競争力を持つように規模の経済を実現するために共同する必要があると語った。同じ会合で、SA(南アフリカ) Biodieselは、バイオ燃料の”バックヤード生産”を拒否、減税措置と大規模生産に賛同した。

 アフリカのバイオ燃料生産に投資される資金の多くは、多国籍企業ネットワークと緊密に結びついた大規模プランテーション農業に向けられる。そして、アグロ燃料作物による企業利潤は、これらのプランテーションが、主要輸送ルートに近接した最も肥沃な土地にあるときに保証される。しかし、これらの土地は夥しい数の小農民が占有しており、彼らがアグロ燃料ラッシュの主要な障害になる。アグロ燃料が取り上げられると、必ずその土地から立ち退けという農民への圧力が強まることがはっきりしてきた。

 タンザニアでは、バイオ燃料の急速な発展を望む首相が、国内最大級の湿地の一つであるワミ川流域に40万fの土地を探すスウェーデンの投資家のために、エタノール生産のためのサトウキビを栽培する便宜を図った。このプロジェクトで、地域の小規模稲作農民の立ち退きが不可避になる。リベリアでは、英国企業・Equatorial Biofuelsが、オイルパーム栽培のための70万fの管理協定・認可を持つLiberian Forest Products(LFP)を取得した。

 土地圧力の高いエチオピアでは、適切な環境影響評価なしで大規模の導入されている外来侵入種であるヤトロファを主として栽培する100万f以上の土地がアグロ燃料企業に与えられる。米、英、イスラエル等の多数の外国企業に与えれらた土地は、公式には19万6000fだが、交渉中の土地を計算に入れると115万fに増えるという。

企業の投資事例

Viscount Energy(中国)

キャッサバとサトウキビを使う8000万米ドルのエタノール工場を設けるというナイジェリアの一州政府との了解メモランダム。

21st Century Ebergy(米国)

コート・ジボワールで、サトウキビ、トウモロコシ、スウィートソルガムからのエタノール生産に今後5年で最大1億3000万米ドルを投資し、後に綿実とカシューナッツの残滓からバイオディーゼルを製造る計画。

Bioenergy Internationald(スイス)

ケニアで、バイオディーゼル製造と発電工場のための9万3000fのヤトロファ・プランテーション立ち上げの計画。
Sun Biofuels(英国) タンザニア投資センターーを協力して、ヤトロファ生産のための1万8000fの最高級農地の取得。
AlcoGroup(ベルギー) 2001年、アフリカ最大の発酵アルコール生産者・南アNCPアルコールの買収。
MagIndustries(カナダ) コンゴ共和国で、6万8000fのユーカリ・プランテーションの取得、ポワント-ノワール市近くでの年産50万トンの木材チップ工場を建設中。チップはバイオマスとして利用するためにヨーロッパの輸出。
Aurantia(スペイン) コンゴ共和国で、オイルパーム・プランテーションと4つのバイオディーゼル製造工場への投資。
Dagris(フランス) ブルキナ・ファソで、綿実油からのバイオディーゼル生産開発に投資。
SOCAPALM and Socfinal(ベルギー) カメルーンでその3万fのオイルパーム・プランテーションの拡張計画。ただ、森林コミュニティーが抵抗。

 南部アフリカ共同体(SADC)のアグロ燃料フィージビリティー研究は、基準に影響を与えるとして小規模プロジェクトに警告している。それは、さらに、アグロ燃料立法と種子規制が地域全体で標準化されるように勧告、”新しい土地を開く”ための自由貿易を加速するソフト・ローンと措置の提供も要求している。アグリビジネスとバイテク企業がアグロ燃料狂いから利益を得るための広範な貿易・農業規制の変更が推奨されている。

 アグロ燃料市場を企業が支配するようになっても、貧しい農民が多少の利益を刈り取る余地は残るという議論がある。特にヤトロファについては、限界的条件でも育ち、貧しい家族に適していると言われる。だが、真実は違う。アフリカにおけるバイオ燃料ブームは農村開発とは無関係で、貧しい農民の生活水準を改善しない。

 ”逆に、政府官僚との協定、法的保護・補助金・減税を求めるロビー活動、希少な肥えた土地や水利権の取得、農民を強制して彼ら自身の土地での安価な労働力とすること、大規模プランテーションへの新たな作物の導入、この裏口を通しての遺伝子組み換え(GM)作物の導入、人々の移住と生物多様性に基づくシステムの追い出し(モノカルチャー化)、アフリカのグローバル市場への一層の隷属により、外国企業が土地を乗っ取りつつある。前例のない規模の土地強奪がアフリカで進行している”。


 まさに、”バイオ植民”とも言うべき新たな植民地化運動の波が生じていると言うべきか。その標的はアフリカだけではない。ここでは紹介しなった東南アジア諸国、南米諸国にも広がっている。

 日本もこの波に乗っている。2005年、多数の日本企業がブラジルのエタノール部門に20億米ドルまでの投資をすることに合意した。この投資には、ブラジルの国有石油企業・ペトロブラスと日本アルコール販売とのエタノール輸出のためのジョイントベンチャー、三井とペトロブラスとのエタノールの生産・輸送・日本への輸出のためのジョイントベンチャー、ブラジル最大の穀物・油料種子商社・Agrencoと丸紅とのバイオディーゼル・ジョイントベンチャー、三井とブラジルの砂糖取引業者・Coimexとのエタノール・ジョイントベンチャーなどが含まれる。

 三井は、南アフリカで大規模なヤトロファ・バイオディーゼル工場、フィリピンでココナッツ・バイオディーゼル工場も建設中である。伊藤忠は、インドネシア、タイ、べトナムで、キャッサバをベースにするエタノール工場を建設する計画である。コスモ石油が、島の面積の40%を超える面積でのバイオ燃料原料生産を計フィリピン・レッテ島で計画しているという報道も流れた(日本企業 レイテにバイオ燃料工場 フィリピン民衆の食料と命を収奪か?,07.6.11)。