米下院 年360億ガロンのバイオ燃料利用を義務づけるエネルギー法案を採択

農業情報研究所(WAPIC)

07.12.7

  米国議会下院が12月6日、2022年までに現在の約5倍、年360億ガロン(約1360億リットル)のバイオ燃料利用を自動車燃料精製所に義務づけることを含むエネルギー法案を採択した。

 House passes energy bill but Bush set to veto(Reuters),The Washington Post12.6
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/12/06/AR2007120601081.html

  Details on the House Energy Bill,The Washington Poast,12.6
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/12/06/AR2007120602178.html

  この法案には、自動車燃費の40%改善(1ガロンあたり平均25マイル=1リットルあたり15km)や最低15%の電力の再生可能エネルギー源からの調達の義務化なども含まれ、ホワイトハウスは税負担とエネルギー価格の上昇につながると拒否権発動も辞さない構えを示している。従って、この下院法案がそのまま生き残る可能性は小さい。

 しかし、法案に盛り込まれたバイオ燃料=再生可能燃料基準(RFS)は、ガソリン消費量の20%までを再生可能燃料に置き換えるという今年の大統領年頭教書の目標に沿うもので、この大筋は実現する可能性もある。

 RFSについては、大部分の再生可能燃料が飼料用利用と競合するトウモロコシを原料とするエタノールであることから、畜産・食肉業界は、その拡大に歯止めをかけることを強く要求してきた。下院案はそれに配慮したのだろう、エタノール利用に与えられる現在の51セント/ガロンの補助金を僅かながら減らすとともに、トウモロコシ・エタノールは現在の倍の150億ガロンにとどめ、残りはスウィッチグラスや木材チップなどからのセルロース系エタノールを含む”先進的バイオ燃料”(advanced" biofuels)で目標を満たすという。セルロース系エタノール生産には、当面(2013年末まで)、1.01ドル/ガロンの税額控除を創設する。

 しかし、”先進的バイオ燃料”がどこまで目標達成に寄与できるかどうかは別問題としても、飼料・食品価格高騰や環境・水への悪影響で既に批判の的になっているトウモロコシ・エタノールをさらに倍増すること自体にも問題がないわけではない。

 米国の食肉(鶏肉を含む)の70%を生産する企業などを代表するアメリカ食肉研究所(AMI)は早速、この法案の下院通過は”非生産的”(counter-productive)だ、一層多くのトウモロコシが家畜飼料から燃料としての利用に転換されるから、食品価格をさらに吊り上げると反発する声明を出した。

 それは次のように言う。

 AMIのパトリック・ボイル会長は、「我々は、米国のエネルギー安全保障を強化する努力を支持するが、この法案のやり方は近視眼的だ。この12ヵ月でトウモロコシ需要は記録的レベルに達したが、穀物ベースのエタノール[の利用]を義務づけることで、この需要はさらに増加する。この法案は、結局は消費者の肉・鶏肉の費用を増加させることになる」と言う。

 米国農務省によると、肉・鶏肉・卵への支出は平均的な消費者の食品支出の60%を占める。ボイル氏は、燃料のために食料を使うことなくエネルギー安全保障を強化するために取ることのできる多くの別の良識的方法がある、食料安全保障や家畜生産者への影響を抑えるための一つの選択肢は、食品価格上昇、不利な天候条件、家畜生産者の被害、インフラストラクチャーのボトルネック、あるいはその他の悪影響が見込まれる場合には、義務を軽減する明確なメカニズムを開発することだ、と言う。 

 彼はまた、穀物ベース燃料150億ガロンというレベルは高すぎる、この義務づけで影響を受けるすべての関係者は義務免除を要求する機会を持つべきだと言う。

 U.S. House of Representatives Passes Energy Bill Doubling Grain Ethanol Mandate,AMI,12.6
 http://www.meatami.com/Template.cfm?Section=Home&template=PressReleaseDisplay.cfm&PressReleaseID=3507&News=Y

 米国のバイオ燃料工場は、基本的には現在の半分の原料価格を想定して建設され、建設計画が立てられたものだ。現在の原料価格水準では、義務的な利用目標の導入や製品輸送インフラ整備などの強力な国の後押しによってしか存続できないだろう。食肉産業の強力な政治的な圧力のなかで、それが獲得できるだろうか。エタノール産業も、今が正念場だ。

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