タイ南部 米価格高騰のなか 水田まで潰して広がるオイルパーム農園

農業情報研究所(WAPIC)

08.3.11

  タイ南部農業経済事務所(OAE)の調査により、政府のバイオディーゼル利用促進政策が熱帯果実や米も含む食料生産用農地のオイルパーム(油椰子)農園への転換を加速している事実が確認された。

 3月7日付のバンコク・ポスト紙が伝えるところによると、バイオディーゼル原料の”天文学的”上昇と、政府のバイオ燃料利用促進政策が村人を突き動かしている。地域が米不足に陥るのも時間の問題、オイルパームは大量の水を必要とするから、特に丘の斜面でのオイルパーム植栽などによる地域の水資源への悪影響も懸念されるという。

 Palm-oil frenzy raises concern,Bangkok Post,08.3.7
  http://www.bangkokpost.com/070308_Business/07Mar2008_biz56.php

  OAEが調査したのはチュムポーン, クラビ, スラタニー, ラノーン, ナコンシータマラート, パンガープーケット.の7県、ヴィロジOAE上官は、「 農民たちはコーヒー畑であろうと、丘の上であろうと、水田であろうと、隙間があればどこにでもパームの木を植えている」と言う。

 数字の一例は次のとおりだ。 

作物

 

2005

2007

増減率:%

スラタニー

面積(rai)

9,443

2,710

-60.63

生産量(t

3,520

1,389

-60.74

ラムブータン

面積(rai)

52,921

48,909

-7.3

生産量(t

41,394

50,746

22.59

オイルパーム

面積(rai)

729,262

832,285

14.12

生産量(t

1,347,382

1,824,720

35.42

ナコンシータマラート

面積(rai)

122,408

99,715

-18.59

生産量(t

54,284

49,464

-8.87

オイルパーム

面積(rai)

1,368,824

1,372,355

0.25

生産量(t

314,455

306,625

-2.49

チュムポーン

ラムブータン

面積(rai)

36,380

20,508

-43.62

生産量(t

21,758

16,893

-22.35

 タイの現在のオイルパーム農園総面積は290万rai(46.4万ha)だが、政府は2012年末までに400万rai(64万ha)追加することを最終目標に、チュムポーン, クラビ, スラタニーのゴム農園や水田の一部と新区域を オイルパーム農園に転換する計画を持つ。

 他方、コーヒーと米の価格は安定しているが、その上昇の可能性は、2年前のキロあたり平均2.40バーツから今週は5.60バーツに倍増したパームナッツとは比べものにならない。石油価格と堅調な需要で、原料ラバーシートの価格も1年前より22%上がっている。

 ヴィロジ氏は、自家消費分の米を生産できるのかどうかと農民に聞いたところ、それはできない、しかし、オイルパームで大稼ぎできるから、米は他の地域から買えるという答えだったという。

  南部の”米ばち”と呼ばれるパッタルン県のスラサック農業事務所主任も、過去10年、水田の危機的減少を見てきた、「10年前、県にはおよそ57万rai(9万1200ha)の水田があったが、オイルパームへの転換で40万rai(6万4000ha)にまで減った」と言う。

 彼によると、県が米不足に陥るのは時間の問題だ。また、同県東部とソンクラー県にまたがるソンクラー湖近くの200万rai(32万ha)の水田をオイルパーム農園に転換する試みもある。

 価格が不安定なラムブータン、ココナッツ、マンゴスチンからオイルパームへの転換も進んでおり、これは基本的な熱帯果実の値段にも影響を与えることになりそうだ。

 観光地として世界的に有名なサムイ島でさえ、園芸用地の所有者がゴムやオイルパームを植えている。ヴィロジ氏は、「我々は、この木は大量の水を必要とするから、オイルパームが丘の斜面のような不適切な場所に植えられると問題が生じると、大変心配してきた」と言う。

 タイ政府は今年2月から、石油輸入を減らす目的で、石油由来ディーゼル98%、バイオディーゼル2%を混合したB2燃料の使用を義務化した。B5義務化も近い。それがオイルパーム・ブームを燃え立たせている。

 他方、昨年来、世界的な需要の増大がタイの米の輸出価格を急騰させている(米国際価格の推移)。それが国内の米不足を招き、国内米価格は輸出価格を超えて急騰している。国内供給確保のためにインドが贅沢品・バスマティ米をのぞくすべての米の輸出を禁止し (たあだし、バングラデシュ向けは除く)、備蓄在庫が僅か8日分にまで落ち込んだフィリピンがベトナムに輸出の確約を求めても、ベトナムもこれに満足に応えられない。そんななか、世界最大の米輸出国・タイの輸出業者も、国内向けに売った方が儲かる、輸出は大損だと、既存輸出契約の廃棄を考えるまでに輸出を渋るようなっている。

 Higher rice prices here to stay,Bangkok Post,08,2.18
  http://www.bangkokpost.com/180208_Business/18Feb2008_biz32.php

 そうしたなかで、水田を潰してまでオイルパームが広がっているわけだ。米は南部14県の主産物ではなく、国内米生産の5%を生産するだけという が、5%の生産者が単なる消費者に変わる影響は無視できないだろう。


 世界中が価格高騰で満足に米を食べられなくなるなか、ただ一国、米余りで困ったと嘆いている国がある。しかし、この国でも、輸入穀物価格の上昇がパンやめんの値段に跳ね返るなか、米飯に切り替える動きが現われている。農林漁業金融公庫が今年1月に行った全国男女2000人を対象とする調査によると、3人に1人が、パンやめんに換えて米飯を増やすと答えたということだ(日本農業新聞、08年3月5日)。日本も近い将来、現在の多くのアジア諸国と同様、米価格高騰に苦しむことになるかもしれない。生産調整強化やイネイネ・日本にうつつを抜かしている場合だろうか