中国のヤトロファ・バイオディーゼル大規模プロジェクト 生物多様性に脅威と専門家

農業情報研究所(WAPIC)

08.3.19

  トウモロコシからのエタノール生産を規制、非食料作物やヤトロファ(Jatropha curcus、ナンヨウアブラギリ)などの植物からのバイオ燃料の大規模生産を目指す中国のバイオ燃料政策には、かねて環境影響などへの懸念を表明してきたが(1)、”SciDev.net”が伝える最新情報によると、3月7日に北京で開かれた”生物多様性と気候変動に関する国際ワークショップ”で、バイオ燃料を生産するための森林や”遊休地”の利用は生物多様性に対する脅威になる恐れがあると専門家たちが警告したそうである。

 Chinese biofuel 'could endanger biodiversity',SciDev,3.18
 http://www.scidev.net/en/news/chinese-biofuel-could-endanger-biodiversity-.html

 中国は2007年7月、食料安全保障を危険にさらすトウモロコシや大豆からのバイオ燃料生産を避け、北東部及び南部でキャッサバ、ソルガムなどの非食料作物からエタノールを、貴州、四川、雲南など南西部でヤトロファからのバイオディーゼルを生産する中長期再生可能エネルギー計画を発表した。

  この国家計画に沿い、ペトロチャイナ、国家林業局、四川、雲南の地方政府を含む企業や政府機関が、ヤトロファを原料とする野心的なバイオディーゼル・プロジェクト開発計画を発表した(2)

  ところが、この会合で、EU−中国生物多様性プログラムのスパイク・ミリングロン主任技術顧問は、このようなバイオ燃料プロジェクトが対象とする中国南西地域は「中国に最後に残った手付かずの天然林のホーム」であり、さらに地域の退化した森林も生物多様性において重要な役割を演じていると語った。

 重慶環境保護局の生物学者であるChen Shengliang氏もこれに呼応、ヤトロファ単一樹種の急速な増加は、草など他の植物を追い払ってしまうと語った。北京清華大学のLiu Xuehua環境学准教授も、遊休地に分類される土地も何もない土地ではない、作物化されていない多様な種のホームであり得ると言う。

 ミリングトン主任は、ヤトロファや他のバイオ燃料植物に適した程度生物多様性地域と高度生物多様性地域を区別するために、環境アセスメントを行うように勧告したという。

 (1)中国・インドのバイオ燃料生産 食料作物栽培のための水の不足を深刻化 国際水管理研究所(,07.11.13)、『環境情報科学』37巻1号(近刊)「特集 脱温暖化を改めて考える」に所収の拙稿など。

 (2)2020年までに1300万fのヤトロファを主体とするバイオエネルギー林の造成を目指すという。  このような”野心的”計画は中国だけのものではない。世界中で目白押しだ。

 インドは、第一段階として政府所有地50haでヤトロファを栽培、第二段階で栽培地を1200haに拡大する。フィリピン70haのヤトロファ栽培計画を発表した。エチオピアでは、ヤトロファを主として栽培する100万f以上の土地が外国企業に与えられた。ケニアではスイス企業がバイオディーゼル製造と発電工場のための93,000fのヤトロファ・プランテーション立ち上げ、タンザニアでは英国企業がヤトロファ生産のための18,000fの最高級農地を取得した。ナミビアの一企業は、65,000fの遊休地・放棄地にヤトロファ・プランテーションを造成する計画を発表している、等々。”野心的”というより、”クレージー”と言うべきかもしれない。