8途上国 森林等保護を要求するEUバイオ燃料基準でWTO提訴も辞さず 

農業情報研究所(WAPIC)

08.11.7

  バイオ燃料生産促進を開発政策の重要な柱に据える8つの途上国が、EUが制定しようとしている持続可能なバイオ燃料に関する基準は不公正な貿易障壁だとしてWTOに提訴する構えを見せている。

 ロイターの伝えるところでは、アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、マラウィ、モザンビーク、シエラ・レオーネ、インドシア、マレーシアの8ヵ国が6日に調印した書状は、「彼ら[EU]は不当に複雑な要求を押し付けている」、「最後の手段としてWTOで権利を防衛する可能性も排除しない国もある」と述べている。

 とくに、「土地利用変化に関係する条項は、バイオ燃料生産に利用できる未開発耕作可能地のストックを持つ途上国に不相応な圧力をかける」としているそうである。

 8 developing countries warn EU over biofuel barriers,Business Times,11.7
 http://www.btimes.com.my/Current_News/BTIMES/articles/yayoo-2/Article/

 欧州委員会が今年1月に提案し、制定に向けた加盟国の議論が大詰めを迎えている持続可能なバイオ燃料基準では、土地利用の直接的変化に関して次のように言われている (間接的変化には言及なし)。

 ・高い生物多様性価値を認められる土地―(a)人間の重大な介入が知られていないか、それが自然種の回復が可能だったほど昔に行われた森林、(b)自然保護区域、(c)高度に生物多様性に富む草地(種が豊かで、施肥されず、退化していない)―から得られた原料で製造されたのではないこと。(c)の草地を決定するための基準は欧州委員会が策定する。

 ・炭素を多量に貯留している土地―常に、または年間の大部分、水に覆われている原生泥炭地を含む湿地と、5m以上の樹高の樹木が1f以上にわたって広がるなどの一続きの林地―から得られた原料で製造されたものではないこと。

 これについて、提案策定過程で欧州委員会が求めたパブリック・コメントに対し、マレーシア政府は、こんな基準は輸出国がその国内法で決めることだと主張していた*。書状に調印した他の国も同様な思いだろう。 

*http://ec.europa.eu/energy/res/consultation/doc/2007_06_04_biofuels/third_countries/malaysia_en.pdf

 11月5日に発表された農林水産省国際バイオ燃料基準検討会議による「バイオ燃料の持続可能性に関する国際的基準の検討に向けた我が国の考え方について」も、「開発途上国においては、農地の開墾等が必要な場合もあることから、土地利用変化 / 炭素ストック / 森林減少については、途上国に一定の配慮をしつつ、バイオ燃料生産のための土地利用変化や森林減少について歯止めをかけるような基準・指標とすべきである」と、途上国への一定の配慮の必要性を指摘している。

 しかし、今年8月に発表された「持続可能なバイオ燃料に関する円卓会議」の「持続可能なバイオ燃料生産のためのグローバルな原則および基準:バージョンゼロ」は、「保護価値の高い地域、原生生態系、生態的回廊、官民生物保護地域は、保護価値が無傷で残される限りでのみ開発することでき、いかなる場合にも用途転換はできない」としている(農業情報研究所仮訳:持続可能なバイオ燃料生産のためのグローバルな原則および基準:バージョンゼロ)。

 確かなことは、「森林破壊と生物多様性の損失は、最近のバイオ燃料需要の急拡大以前から、すでに持続不能なレベルに達していた」(同上)ということである。全体的に見れば、バイオ燃料のためであろうと、食料のためであろうと、失われてもいい「保護価値の高い地域、原生生態系、生態的回廊・・・」 はもはや残っていない。だが、WTOまで持ち出して争う間に、それらはますます失われていくだけだ。 とりわけこれらの国では、莫大な面積の森林、湿地、草地がサトウキビ(ブラジル、モザンビークなど)、オイルパーム(マレーシア、インドネシア、コロンビアなど)、ヤトロファ (マラウィ、モザンビークなど)のプランテーションに転換されつつある。

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