ヤトロファはワンダークロップ?スワジランドの経験 ”地球の友”が新報告

農業情報研究所(WAPIC)

09.5.30

 英国・D1 Oils社は、食料と競合せず・乾燥した瘠せ地などでも育つ”ワンダー・クロップ”として世界中でヤトロファ(ジャトロファ)栽培を推進している(英国D1 Oilsが最初のヤトロファ油 ヤトロファディーゼル実用化への第一歩?,08.10.2)。しかし、ガーナで5月28日に開かれるヤトロファ世界サミットを前に、”地球の友”が、スワジランドの経験は、ヤトロファから生産されるバイオ燃料は食料生産のための土地や水と競合する恐れが強いことを示しているとする新たな報告を発表した。

 Jatropha - Wonder Crop? Experience for Swaziland
 www.foe.co.uk/resource/reports/jatropha_wonder_crop.pdf

 地球の友・スワジランドの手になり、地球の友・UKが発表したこの報告の大要は次のようなものだ。

 1.ヤトロファは限界地でもよく育つ?

 D1 Oilsは、ヤトロファがバイオ燃料作物として何よりも優れている点は、食料生産に不適か、そのために使われなくなった”限界地”または”荒廃地”でもよく育つために、食料生産と競合しないことだと主張している。しかし、スワジランドのNGOは、D1 Oilsとの契約で灌漑棉作地や食料作物生産地をヤトロファ栽培地に転換、その後の食料価格高騰で飢えに直面することになったが契約解除の方法も知らないという農民など証言を記録している。

 ”荒廃地”とされている土地も、実際には、最も貧しいコミュニティにとって貴重な放牧地であったり、食料自給のための農地であったりする。英国政府が再生可能燃料庁(RFA)に委嘱した「バイオ燃料の間接影響レビュー」Gallagher reviewも、ヤトロファのような作物が優良農地で栽培されるのは、規制なしでは防ぎようがないと警告している。

 2.瘠せた土地でも高収量?

 研究が示すところでは、ヤトロファの油収量は高低様々で、優良地で栽培するときの方がずっと高い。スワジランドのNGOは、ヤトロファは乾燥条件ではよく育たないという農民の不平を記録している。英国海外開発研究所(ODI)の研究も、限界地で栽培されるだけなら、約束された収量は得られそうにないと示唆している。

 3.乾燥条件でも育つ?

 スワジランドでは、ヤトロファは週に一回から三回の潅水が必要で、ヤトロファ用の集水が調理や衛生などの家庭用水と競合すると言う農民がいる。十全な研究はないが、ヤトロファは灌漑なしでは育たないことを示唆する証拠がある。

 4.ヤトロファは安全?

 スワジランドでは長年にわたり栽培され、垣根や石鹸に利用されてきたが、他の国では侵入種や、発癌性物質を含み、人間と家畜の健康リスクをもたらす有毒植物に分類されている。

 5.病気に強い?

 D1 Oilsは農薬無用と言っているが、スワジランドのNGOは病害を報告する農民のケースを記録している。ヤトロファは商業作物として栽培されたことがないから、地方民には病気防除に関する知識はまったくなく、農民はD1が彼らを助けるのも拒否していると言う。

 6.環境リスク?

 2008年4月、スワジランド政府は、ヤトロファ栽培をめぐる環境リスク評価がまったく行われていないために、さらなるすべての植栽を停止させた。

 7.貧しいコミュニティの開発機会?

 D1 Oilsは、国民の80%が自給農業を営み、近年はその多くが厳しい干ばつの被害を受けているスワジランドの農村コミュニティが、ヤトロファ栽培で大きな利益を受けると主張している。しかし、ヤトロファ栽培で農民が豊かになったという証拠を見つけるのは難しい。多くの研究は、ヤトロファは小規模栽培作物としてのみ存続可能と見ており、ODIの研究も、人々の生計の大黒柱にはなりそうもないとしている。

 8.農民にとって公正な契約?

 スワジランドのNGOは、D1 Oilsと農民の契約に対して、農民は契約を読めないか、理解できない、契約のコピーを残していない、契約は数年間解約できないなどの問題を挙げている。

 9.スワジランドのエネルギー主権?

 D1 Oilsは、スワジランドはヤトロファ栽培で自国のバイオディーゼルを生産できると言っているが、現在の法律の下では、生産されるバイオディーゼルは国内で流通させることはできず、輸出されることになる。

 こうして、報告は、ヤトロファは、EU諸国が持続可能な方法でバイオ燃料利用目標(2020年までに輸送燃料の10%)を達成することにも、世界のエネルギー問題を解決することにも貢献せず、食料生産のための土地や水と競合する恐れがあると結論する。

 そして、EUに対しては、バイオ燃料生産の土地利用に対する間接影響に関する来年の報告EU再生可能エネルギー利用促進指令のバイオ燃料持続可能性基準(仮訳),08,12.26でヤトロファの影響を徹底的に分析せなばならないD1 Oilsに対しては、ヤトロファバイオディーゼルの社会・環境影響の適切な評価が完了するまで、その生産をストップすべきだと勧告している。

  関連ニュース
 
Friends of the Earth kicks against Jatropha production in Africa,Ghana Business News,5.29
 http://ghanabusinessnews.com/2009/05/29/friends-of-the-earth-kicks-against-jatropha-production-in-africa/