バイオ燃料増産で英国が小麦輸入国に?巨大エタノール工場が国内総生産の20%を消費

農業情報研究所(WAPIC)

09.10.6

 日本の一部識者が食料自給率回復のお手本と持ち上げるイギリスが、大量の小麦を原料とするヨーロッパ最大のエタノール工場の完成で、来年は、史上初めて、小麦を輸入することになるかもしれない。

 イギリスの最高級紙とされるタイムズ紙が10月5日付けで伝えるところによると、Ensus社がティーサイドのウィルトンに建設中で、この秋に操業を始めるこのエタノール工場は、イギリスの小麦年収穫量の10分の1を消費する。この量は、毎年輸出に向けられる余剰分を超え、イギリスは、史上初めて、小麦の純輸入国に転じる可能性があるという。

 Hunger for biofuels will gobble up wheat surplus,Times,10.5 
 http://business.timesonline.co.uk/tol/business/industry_sectors/natural_resources/article6860936.ece#cid=OTC-RSS&attr=1185799

 この工場は、4億5000万リットルの小麦ベースのエタノールを生産するために、120万トンの小麦を必要とする。今年のイギリスの小麦収穫量は1400万トンと予想されるが、不作となると1200万トンに落ち込む可能性もある。年々の余剰分に相当する輸出は、近年は50万トンから300万トンの間にある。

 Ensusのほか、英国石油(BP)も、年産4億2000万リットル、110万トンの小麦を消費するエタノール工場をハルに建設中で、これも来年夏には操業を始める。

 こうなると、二つの工場で230万トン、国の総収穫量の20%近い小麦を消費することになる。これらの小麦は低級の飼料用のものだが、不作の年にはカナダやフランスから輸入せねばならなくなるだろう。ナショナル・ファーマーズ・ユニオン(NFU)の穀物ボード委員長は、高級パン小麦を輸入せねばならないこともありそうだと言う。ただ、NFUは、穀物価格を支えることになるからと、工場開設を歓迎しているということだ。

 基礎食料の自給も危うくするほどのバイオ燃料需要の急騰は、2014年までに自動車燃料の5%をバイオ燃料とするという英国”再生可能輸送燃料オブリゲーション”が必然としたものだ。オランダのロッテルダムでは、年産4億8000万リットルの工場も建設中だ。2020年までに輸送用燃料の10%を再生可能燃料とすることを義務付けたEU指令は(EU再生可能エネルギー利用促進指令採択 ブラジルエタノール業界が安堵の声,08.12.20)、途上国のみならず、EU自体の食料自給も危うくする恐れがある。