国連環境計画 バイオ燃料開発は慎重に 土地利用変化で温暖化ガス排出が増える可能性

農業情報研究所(WAPIC)

09.10.19

  国連環境計画(UNEP)が10月16日、環境に優しいエネルギーとしてのバイオ燃料の開発に一層の慎重さを要請する新たなリポートを発表した。これは、UNEPの”持続可能な資源管理国際パネル”による最初の報告で、2009年半ばまでに公表された研究のレビューと世界中の独立専門家の意見に基づく。バイオ燃料開発が社会・経済・環境全体に利益をもたらすためには、諸国政府は、エネルギーの必要性、気候・土地利用・水利用・農業への影響を精査せねばならないという。

 Towards sustainable production and use of resources: Assessing Biofuels,UNEP,09.10.16
  http://www.unep.fr/scp/rpanel/pdf/Assessing_Biofuels_Full_Report.pdf

  報告が明らかにする主要な事実は次のとおりである。

 バイオ燃料市場

 世界の輸送用バイオエタノール生産は、2000年から2007年までに、170億リットルから520億リットルへと、3倍ほどに増えた。バイオディーゼルは、10億リットルから110億リットルと、11倍に増えた。バイオ燃料は、輸送用燃料の1.8%を提供している。

 土地利用変化と第一世代バイオ燃料の影響

 世界の作物作付地は、蛋白質に富む動物性食品に対する需要の増加で人口増加率を上回る速さで増加する食料需要を満たすためにのみ拡大する。非食料バイオマス作物に対するいかなる追加需要も、森林・草地・サバンナなど自然状態にある土地の転換圧力を高めるだけである。

 第一世代バイオ燃料作物、すなわちエタノール生産のためのサトウキビ、トウモロコシ、バイオディーゼル生産のためのナタネ、大豆などのための世界土地利用は、2008年時点で約3600ヘクタール、世界作物用地の約2%である。2030年までに世界の輸送用燃料需要の10%を第一世代バイオ燃料で満たすとすれば、1億1800万ヘクタールから5億800万ヘクタール(現在の世界耕地の34%)が必要になる。

 これらバイオ燃料は、1億7000トンから7億6000トンの化石燃料CO2に代替することが可能だ。しかし、関連する土地利用変化は、7億5000万トンから18億3000万トンのCO2追加排出につながる。つまり、エネルギー作物バイオ燃料のために、今後何十年かの温室効果ガス排出は、減るのではなく、増える可能性がある。

 バイオ燃料作物のための土地利用変化は、世界のバイオマス需要が増えるかぎり、製品基準や認証だけでは回避できない。認証生産は、特に食料やその他の分野で、非認証生産に駆り立てる。

 様々なバイオ燃料の気候への影響

 バイオ燃料の気候への影響は、バイオ燃料が作物由来か、廃棄物由来かをはじめとする多くの要因に依存する。廃棄物の利用は、通常は環境に優しく、土地の追加は無用で、経済的利益も提供する。

 栽培とバイオマスの燃料への転換のプロセスが環境パフォーマンスを決める。ブラジルのサトウキビ・エタノールは、廃棄物(バガス)の加工エネルギーへの利用や国レベルで供給される電力の生産への利用が一因となり、気候にはプラスの影響があると考えられる。

 トウモロコシ・エタノールの場合、作物の液体燃料への転換過程で化石燃料が使われることから、温室効果ガス排出削減効果はもっと小さい。温室効果ガス排出は精製工場の効率やその他の要因によって異なる。ガソリンと比べて60近く減る場合から、5%増加する場合までがある。[参照:米大統領が新たなバイオ燃料促進策 トウモロコシエタノールはますます窮地に,09.5.6]

 パームオイル・バイオディーゼルは、温室効果ガス排出を、化石燃料に比べて80%減らす。しかし、パームオイルが熱帯林を切り開いた作物地から生産されるならば、排出量は最大800%増える可能性がある。泥炭地開拓の場合には2000%も増える。

 動物糞尿からのバイオメタンは、化石燃料よりも排出量を170%以上減らし、農業・林業廃棄物からの第二世代エタノールは80%から90%減らす。

 インドやアフリカの乾燥地で推奨されているヤトロファ(ジャトロファ)は、劣化地で栽培されれば温室効果ガス排出を減らすことができるが、シュラブの土地で栽培されると、土地利用の変化を通じて排出が増える。しかし、バイオ燃料の利用が薪の採取などの伝統的バイオマス利用による森林破壊の減少につながれば、この排出増加を相殺する可能性もある。

 報告は、その他、肥料使用の増加による水質汚染や窒素酸化物排出の増加、放棄地・荒廃地利用や食料需要増加に伴う草地・サバンナ・森林の転換の生物多様性への影響なども強調し、諸国政府に対して次のように勧告する

 ・肥料に関連した温室効果ガス排出、水への影響、土地利用の影響など、広範な環境側面を含めた国際的に認められたライフサイクル・アセスメントに基づく調和的なバイオ燃料製品規格の開発。

 ・現在のバイオ燃料利用(義務的)目標を、世界的な土地利用への影響も考慮、持続可能な仕方で供給できるレベルに引き下げること。

 ・森林や生物多様性豊かな土地など、高い価値を持つ自然生態系への耕地拡張の制限。

 ・バイオ燃料生産に適するかもしれない世界の劣化地の一層包括的なアセスメント。これらの土地は、食料生産、林業、自然再生のために利用できるかもしれない。劣化地で生産されるバイオ燃料の経済的存続可能性も考慮する。

 ・食料用にもエネルギー用にも利用できる土地の単位面積あたり収量を増やすように、アフリカ等低収量国・地域の収量を持続可能な仕方で増やすこと。

 ・廃棄物やスイッチグラス・海藻などからの先進世代バイオ燃料の環境パフォーマンスの研究。

 ・固定した場所での電力生産とバイオマスの液体燃料への転換の相対的利点や、バイオ燃料と固定場所での太陽光発電の相対的メリットの比較研究。

 ・燃料税や燃料効率基準などを通しての、燃料消費全体を減らす政策の導入。