米大統領が新たなバイオ燃料促進策 トウモロコシエタノールはますます窮地に

 農業情報研究所(WAPIC)

09.5.6

  米国オバマ大統領が5月5日、エタノールスタンドを増やし、原油価格低下に伴う需要と価格の低迷で苦闘する生産者に一層の補助金を注ぎ込むなどの新たなバイオ燃料研究・商品化促進策を発表した。

 President Obama Announces Steps to Support Sustainable Energy Options,White House,5.5
 http://www.whitehouse.gov/the_press_office/President-Obama-Announces-Steps-to-Support-Sustainable-Energy-Options/

 農務長官と環境保護庁長官が主宰するバイオ燃料インターエージェンシー作業グループを設立し、現在の10%を超えるエタノールブレンド比のガソリン・エタノール混合燃料で走ることのできる車の生産を奨励し、このような燃料のガソリンスタンドでの販売を増やすための計画を作り上げる任務を課す。

 バイオ燃料精製所の建設や基礎研究のために経済対策法からの7865万ドルの追加資金を提供、次世代バイオ燃料の研究開発やバイオ燃料商業生産の拡大を加速させる。

 今や青息吐息の米国エタノール産業が喉から手が出るほどに欲しがっていたバイオ燃料促進政策が、いよいよ日の目を見る。エタノール最大手の穀物メジャー・ADMでさえ、エタノール部門の不振で3月末で終わる第三四半期の純益が昨年同期に比べて98%も減少、たったの800万ドルに落ち込んだと発表したばかりだ。政府の早急なバイオ燃料支援とブレンド比の引き上げを切望していた。

 ADM Reports Third Quarter Results,09.5.5
 http://www.adm.com/Lists/PressRelease/Attachments/49/ADM%203Q%20FY09%20Earnings%20Release.pdf

 これで米国エタノール産業が息を吹き返すことになるのだろうか。そうはいかない。

 これらの施策と同時に提案された環境保護庁(EPA)による再生可能燃料基準(RFS、2007年エネルギー独立・安全保障法が義務付けた2022年までのバイオ燃料供給量)に関するルールは、この基準を満たすべきバイオ燃料から現在の大部分のトウモロコシエタノールを締め出すことになるだろうからである。

 2007年エネルギー独立・安全保障法によれば、この基準を満たすべきバイオ燃料は、温室効果ガス(GHG)のライフサイクル排出量を、現在の米国のバイオ燃料のほとんどすべてをなすトウモロコシエタノールならば、石油燃料に比べて20%以上削減せねばならない。

 ところが、エタノール生産拡大によるトウモロコシ価格の上昇が引き起こす世界中での作物生産増大のための土地利用転換(草地や森林の耕作地化)という間接影響まで含めたEPAのアセスメントでは、様々な生産工程を持つトウモロコシエタノールのほとんどが、30年にわたる利用ではこの基準を満たせない。

 乾式製法で、飼料として販売される蒸留滓(distillers grains)の乾燥過程(大量のエネルギーを消費する)を伴わないごく僅かな生産工程を持つトウモロコシエタノールのみが、辛うじて基準内に収まることになる*

  *EPA Lifecycle Analysis of Greenhouse Gas Emissions from Renewable Fuels,EPA-420-F-09-024, May 2009
   http://www.epa.gov/otaq/renewablefuels/420f09024.htm

 この評価の方法の詳細と結果については、次のp.25020以下。

 EPA:Regulation of Fuels and Fuel Additives: Changes to Renewable Fuel Standard Program,Federal Register / Vol. 74, No. 99 / Tuesday, May 26
  http://www.epa.gov/otaq/renewablefuels/rfs2_1-5.pdf

 特に蒸留滓乾燥の問題は、トウモロコシエタノールの経済的存続にかかわる重大問題になる。乾燥蒸留滓は、トウモロコシ価格が高止まりする今、米国はもとより、日本を含む世界中で飼料としての販路を拡大しつつある。それは、エタノール工場の死活にかかわる重要な採算源となっている。ところが、湿ったままの蒸留滓はエタノール工場近隣の農場でしか使えない。GHG排出基準を満たそうとすれば、エタノール工場は不可欠な採算源を失うことになる。

 このような提案は、今後60日間のパブリックコメントに付される。エタノール業界からは、間接影響の考慮に対する大量の激しい批判が寄せられよう。しかし、カリフォルニア州は、既に同様な決定に踏み切った(カリフォルニア州 世界に先駆け、輸送燃料からの温室効果ガス排出削減を義務付け)。産業界の圧力には屈しないと既に言明しているEPAが譲歩する可能性はますます少なくなっている(バイオ燃料の温室効果ガス排出 間接的土地利用変化の影響も測定、と米EPA)。


 自国のバイオ燃料政策がマクロ経済の変化を通じてはるか離れた異国の土地利用も変化させる。GHG排出のライフサイクル評価にこのような間接影響を組み込むべきかどうか、組み込むとしてもどう組み込むのか、日本もヨーロッパもなお決めかねている。温暖化対策では遅れを取った米国が世界標準を作り出そうとしている。食料と競合さえしなければいいなどという日本の主張は、いまやどこでも通用しない。科学者・研究者も官僚も政治家も、世界の動きに余りにも鈍感である。