農業情報研究所環境エネルギーニュース:2010年10月14日

米国EPA 一部新型車のE15燃料使用を承認 エタノール利用増大は期待できず 食料価格が上がるだけ

 米国環境保護庁(EPA)が10月13日、2007年以降モデルの車(全体の18%)について15%のエタノールと85%のガソリンを混ぜた燃料(E15)の使用を認めると発表した。今まではエタノール混合比が最大で10%までの燃料(E10)しか認めていなかった。このエタノール混合比の制限を一部の車について15%まで広げたものだ。2001年〜2006年モデルの車(全体の36%)については、エンジンに無害かどうかを確かめる現在進行中で11月には完了するエネルギー省の試験の結果を待つ。また、こういう古い車の持ち主がE15を使うのを防ぐための表示制度も導入する。

 EPA Grants E15 Waiver for Newer Vehicles/A new label for E15 is being proposed to help ensure consumers use the correct fuel、10.10.13
 http://yosemite.epa.gov/opa/admpress.nsf/0/BF822DDBEC29C0DC852577BB005BAC0F

 E15の使用の承認は、10%という制限があるかぎり2007年エネルギー自立・安全保障法により定められる再生可能燃料基準(義務的利用目標量)を満たすことはできないと、エタノール産業が強く求めてきたものだ。実際、燃料エタノール需要は伸び悩んでおり、今年のエタノール生産量も生産能力を大きく下回る106億ガロンに とどまりそうだ。しかし、今年の再生可能燃料基準は120億ガロンで、2015年には150億ガロンに増える。この目標を達成するために、E15の使用によってエタノール使用量を増やそうというわけだ。業界は一山超えた。

 今回の決定でエタノール需要は増えると見るのは当然だろう。原料となるトウモロコシの需要も増えると見られよう。ところが、この決定が発表された13日、米国の供給減少の見通しから前日には2年来の高値に急伸したシカゴ商品取引所のトウモロコシ先物相場が、逆に下落した。トウモロコシ、従ってエタノールの価格が石油と競争できないほどに上がっては、燃料販売者はエタノール使用量を減らさざるを得ない。E15承認にもかかわらず、エタノール使用量は増えない恐れがある。

 それにしても、トウモロコシはなぜこれほど値上がりしたのだろうか。今回の急騰は、米国農務省(USDA)が10月8日、月例世界穀物需給報告で米国のトウモロコシ収量が今までの予想よりも大きく減ると発表したことが契機となっている。しかし、発表の中身をよくみると、減ったとされる米国のトウモロコシ生産量も、前回の価格急騰時の2006/07年の生産量を5400万トンも上回っている。これに対し、米国の消費量は、同じ期間に6093万トン増えた。値上がりの一因は投機にあるとしても、投機も需要の増大に触発されたと見ることができよう。今や、米国のトウモロコシ需要は、生産いくらが増えても追いつかないほどに増えている。値上がりの真の理由はそこにある。

 どうして需要がこのように増え続けたのか。食料・飼料用需要のためではない。エタノール原料用需要の増大のためだ。2006/07年、米国で生産されたトウモロコシの20%ほどがエタノール原料として使われた。その後この比率が急上昇、2010/11年には35%にも達する (下図参照)。値上がりの真因は、このようなエタノール原料用需要の急拡大にある。そのために、供給のわずかな変動にも市場は敏感に反応する。これを投機と非難する前に、投機 を生み出すエタノール政策こそ非難されるべきだろう。エタノール産業は自分で自分の首を絞め、.今や窒息死寸前の状態にある。それは自業自得だが、このために飼料・食料価格の値上がりで苦しむ畜産・食肉業界や消費者、とりわけ途上国の貧しい人々はたまったものではない。

Data Source:USDA:World Agricultural Supply and Demand Estimates