農業情報研究所環境エネルギー>米国エタノール ニュース:2015年12月20日

ガソリン下落 政府支持も当て外れ 米国エタノール産業の雄・ADMも断末魔 トウモロコシ価格回復も望み薄

 原油価格の下落が止まらない。14年4月にはガロン3ドルを超えていたRBOBガソリン(アールボブ・ガソリン エタノール混合型改質ガソリン)ニューヨーク先物価格は、今や1ドルを切り、燃料エタノールを0.5ドル(50セント)も下回るレベルにまで落ち込んだ。同じ量ではガソリンの6割ほどの距離しか走れないエタノール、これでは車の燃料としてガソリンと競争できるはずがない。

 加えて石油業界の圧力を受けた環境保護局(EPA)は、今年のトウモロコシベース・エタノールの義務的使用量(再生可能燃料基準・RFS)を法定2007年エネルギー独立安全保障法)の150億ガロンを5億ガロン下回る145億ガロン(15年についても法定の150億ガロンに対して140.5億ガロンだった)に決めた。⇒Renewable Fuels Association(RFA);EPA Final Rule for 2014-2016 RVOs,

 米国のトウモロコシベース燃料エタノール産業は、まさにこのRFSを頼りに成長してきた。2006年、43億ガロンの生産能力しかもたなかった米国エタノール産業が152億ガロン(2015年1月現在)もの生産能力を持つまでに成長したのもそのためだ。⇒RFS;http://www.ethanolrfa.org/wp-content/uploads/2015/09/c5088b8e8e6b427bb3_cwm626ws2.pdf

 トウモロコシ生産者とエタノール生産者が連合した強力なロビー活動もRFS引き下げを阻止するほどの影響力を失っている。先日のコーンベルト・アイオワでの大統領予備選でも、政府のエタノール支持政策に反対するテキサスの上院議員、テッド・クルーズが勝利した。

 ガソリン価格の暴落とRFSのはしごを外された米国エタノール産業が断末魔の叫びをあげている。10年前、13億ドル(1500億円)を投じてネブラスカとアイオワに二つのトウモロコシエタノール工場を建設、米国一のエタノール生産者に躍り出た穀物メジャー・ADM(アーチャー・ダニエルズ・ミドランド)も先週、”戦略的選択”の見直し、工場売却にもつながり得る」研究を発表した。もはやエタノール事業は会社のお荷物でしかなくなった。売却を検討しているのはADMだけではない。しかし、この状況で買い手がつくのだろうか。

 ADM considers calling time on ethanol mills as oil fall bites,FT.com,16.2.8;Ethanol champion ADM in corn mills rethink,Financial Times,16.2.9,p.16

 エタノール産業成長で未曾有の高騰を示したトウモロコシ価格も低迷が続いている。日本はアベノミクスの化けの皮がはがれ、円高に急進、輸入飼料用トウモロコシの価格も大きく下がるだろう。飼料用米は、生産費のほとんどをカバーするような飼料用米助成にもかかかわらず、輸入トウモロコシと競争できないだろう。生産資材価格引き下げが至上命題の「農政新時代」、さすがの小泉進次郎も安いトウモロコシをやめて高価な飼料用米に切り替えろとは言えないだろう。米国エタノール産業の消長は、わが国農政の進路変更をも強要する。