今日、世界の電気のおよそ40%が石炭燃焼発電所で生産されている。毎年、採掘される石炭の80%が消費される。石炭燃焼は二酸化炭素(CO2)とその他の大気汚染物質を生み出す故に、気候変動(地球温暖化)との闘いの努力は石炭代替燃料の探求に向けられた。天然ガスは石炭よりクリーンで安価だが、石炭同様、化石燃料中の炭素を大気中に返すことに変わりはない。そこで目を付けられたのが木質バイオマス、薪(たきぎ)だ。樹木は大気からCO2を取り除き、燃える樹木それを大気に返す。つまり、木質バイオマス発電は大気中のCO2を増やしも、減らしもしない、“カーボン・ニュートラル”というわけだ。
EU(欧州連合)はバイオマス燃料をカーボン・ニュートラルと宣言、これを気候変動と闘うパリ協定の約束を果たすための重要手段に据えた。2020年までに木質バイオマスを含む再生可能エネルギーから20%の電気を生み出すという目標を掲げる。そのために、年70万トンに達する木質ペレットを米国から輸入している。次第に衰えつつある林産業の復活ために、米国議会も木材燃料をカーボン・ニュートラルと宣言しようとしている。
だが、ちょっと待て!燃料のために木を切るということは、さもなければ大気中に蓄積するであろうCO2のシンク(吸収源)として重要な役割を果たす森林―毎年、人間活動から排出されるCO2の31%は森林に蓄積されると推定されている―を破壊するに等しい。森林が再生、かつて貯えていた炭素を完全に取り戻すのでなければ、カーボン・ニュートラルとは言えないだろう。森林がそこまで再生する前に再び木を切ってしまえば、結局、森林が貯えていた炭素を大気中に放出することになる。
EUのバイオマス発電を材料に、発電のための木材燃焼のカーボン・ニュートラル性を問う米国の研究が現れた。
Are
wood pellets a green fuel? Science
23 Mar 2018:Vol. 359, Issue 6382, pp. 1328-1329
http://science.sciencemag.org/content/sci/359/6382/1328.full.pdf
EUのバイオマス発電が大きく依存する米国産木材ペレットは、米国南東部
それだけはない。大気にCO2を加えるのは木材燃焼だけではない。ヨーロッパの発電所におけるペレットの使用によって大気に放出されるCO2の25%ほどはペレット製造過程とヨーロッパへの輸送過程で生じている。木材燃焼のカーボン・ニュートラルは、木材が収獲される地域でもともとのバイオマスを取り戻すような森林成長が可能な場合にのみ達成できるということだ。
多くの環境エコノミストは、木材ペレットの生産のための森林価値の増加が一層の植林を確保することになると考えている。木材ペレットの生産をやめれば森林価値が低下、森林の荒廃につながるというわけだ。
しかし、著者は、米国南東部のこれら森林は大部分、豊か生物多様性を育む保全価値の高い森林ではないと言う。
「米国南東部の生物多様性の喪失は大部分、開拓の結果であり、過去2世紀の間の開墾は既に生物多様性に多大な影響を及ぼしていた。20世紀前期の農業放棄に続き、今や森林が広がっているが、大部分は低バイオマスで低多様性の米松プランテーションである。結局のところ、どんな種類の森林が将来のために最も望ましいのかということだ。森林が炭素パリティの再生を保証されないかぎり、燃料用木質ペレットの生産は、現在以上の大気中CO2と生物多様性喪失に結果することになりそうだ」。これが著者の結論である。
|