農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2015年9月13日

鬼怒川大水害は人災か ”現代の黄金”メガソーラーが犯した大罪

 先日、メガソーラーの環境リスクに警鐘を鳴らしたばかりだが(喜んでばかりはいられない太陽光発電急成長 奪われる生物多様性)、その時は思いもしなかったその巨大なリスクを関東大水害が浮かび上がらせた。

 関東鉄道常総線南石下近く(三坂町)での鬼怒川堤防の決壊(10日0時50分)によって市の東側の広大な地域が洪水にのまれる様相が大々的に報じられている。が、この決壊のおよそ6時間前、二駅ほど上流、若宮戸地区の砂丘=自然堤防から越水が起きていたことについてはそれほど報道がない。この越水で洪水が堤防の裏を削り、すぐ下流の堤防決壊につながった可能性があると考えると、この報道姿勢には大いに問題がありそうだ。この越水に「人災」の可能性があるとすればなおさらだ。

 この越水箇所には自然堤防を削って建設されたメガソーラーが鎮座している。地元住民は、ここから洪水が起きる可能性があると、メガソーラーを作るのに反対していた。建設場所は私有地だが、「生命や財産を失う不安があった。それらを守る権利が国民にはある」と声を上げ続けたが、同市石下庁舎の職員に「何かあれば自己責任で逃げてください」と切り捨てられ、削られた自然堤防の代わりには土のうが積み上げられただけだったということである。

 越水「人災だ」住民反対押し切りソーラーパネル設置 日刊スポーツ 15.9.12

  太陽光装置設置工事で堤防削られる 常総 毎日新聞 15.9.11 

 同県坂東市の吉原英一市長は11日、県庁を訪れた政府調査団に、越水前後の川岸の写真を示し、メガソーラーを建設した民間業者が砂丘を掘削したことが越水を招いたと主張、事業の許認可では地元住民の意見に十分配慮するように要望した。しかし、赤沢亮正内閣府副大臣は、「どこで、どんな力が働いたのか、しっかり分析した上で評価すべきだ」と述べるにとどまった。掘削部に大型土嚢を設置した国交省は、「本来、私有地の形状変更に関して責任はない(国には国民の生命と財産を守る責任はない?―農業情報研究所)。掘削が氾濫の原因とは断定できない」と言っているそうである。

 メガソーラ建設「川岸掘削が越水招いた」 坂東市長 東京新聞 15.9.12 夕刊 9面

 山林を削ってのメガソーラー建設が山林の保水力の低下によって下流の洪水につながり得ることは想像できた。

 しかし、うかつにも、洪水の危険に直接つながる堤防を削ってのメガ―ソーラーなど想像もできなかった。今後、環境によいともてはやされ、胸を張って大儲けもできるとなれば、人間、何をするか分らないと肝に銘じなければ。国は「どこで、どんな力が働いたのか、しっかり分析した上で評価すべきだ」、「掘削が氾濫の原因とは断定できない」と逃げ続けるだろう。失われた人命、生活、田畑、家屋、家財、建物、構造物、すべての賠償などできるものか。

 こうなれば原子力規制並みのメガ―ソーラー規制?いや、バイオ燃料のような無法ぶり(拙稿 バイオ燃料は現代の”黄金”かーその爆発的拡大への数々の懸念 世界 2007年10月号参照 )を防ぐためには、規制よりも脱メガソーラーが必要かもしれない。堤防決壊の原因が明らかにされるとき、こんなメガソーラーを設置した業者とそれを許した自治体・国の大水害を引き起こした責任も明らかになるだろう。

  追補:関連情報 (9月17日)

 メガソーラー事業者「国から説明なかった」 産経ニュース 15.9.16

 自然エネルギー開発に冷水を浴びせる――ウィナー『鯨と原子炉』の示唆と予言 吉永明弘 / 環境倫理学  SYNODOS 15.9.17