鳥インフルエンザ・ワクチンがウィルスの進化を加速―新研究

農業情報研究所

04.3.26

 食品安全委員会は25日、鳥インフルエンザのワクチンを使った鶏肉・鶏卵を食べても健康影響は無視できると、その安全性を認めた。だからといって農水省が鳥インフルエンザ蔓延防止策としてワクチン使用を簡単に認めることはないだろう。専門家も指摘するように、ワクチン使用には弊害が多すぎる。食品安全委員会で承認を得たのは、あくまでも万が一に備えたものと解される。

 このワクチン使用が非常な用心を要することを示す情報が新たに加わった。24日付のNew Scientist.comが、鶏へのワクチン使用はウィルスの進化につながり、人間の感染リスクも増加させる恐れがあるという最新の研究を報じている(⇒Bird flu vaccination could lead to new strains)。記事の概要は次のとおりだ。

 鶏へのワクチン接種はアジアにおける鳥インフルエンザの悪夢から脱出する唯一の道だろう。濃密なサーベーランスだけがこの事態をストップさせることができるが、感染国にはそのために必要なシステムが整備されていない。先週終息を宣言した中国は処分を免れた無数の鶏にワクチンを接種しているし、インドネシアもそうだ。H5N1鳥インフルエンザに襲われた他のアジア諸国も同様な戦略を考えている。

 しかし、H5N1ウィルスがワクチンを接種された鶏の間に広がっていることはほぼ確実で、これによって人々に致命的なだけでなく、人から人に拡散できる形に進化する恐れがある。Journal of Virology誌に発表された研究で、米国農務省のDavid Suarez等の研究チームが、このような条件の下では、鳥インフルエンザは前例のない速さで進化、予測できない結果を伴うことを初めて明かにした。

 ワクチン、とくにインフルエンザ・ワクチンは100%有効でないために、獣医学者は通常、ワクチン接種の代わりに、病気に罹り、また暴露された動物を廃棄処分にすることで家畜感染病をコントロールする道を選ぶ。ワクチンは動物が病気になるのを防ぐが、動物の体内では数の減ったウィルスがなお増殖でき、動物から動物へと広がる。このような「静かな感染」は見分けるのが難しく、ワクチン未接種の動物が暴露されたり、ワクチンが切れると、新たな勃発を引き起こす可能性がある。

 アジアの広大な地域を襲っている現在のH5N1鳥インフルエンザについては、ワクチン接種以外に発生を抑える方法はないだろうが、これには心配される前例がある。メキシコは95年、ワクチン接種によって高病原性H5N2インフルエンザの発生を止めたが、ウィルスはなお静かに広まり、メキシコは未だワクチン接種を続けている。David Suarez氏は、鳥インフルエンザ・ウィルスは長く生き残らないために、鶏の中ではほとんど変化しないが、メキシコではウィルスが長年にわたりワクチンを接種された鶏に暴露されてきたために、新たな形への進化が促されたと言う。

 研究チームは、95年以来メキシコで、ワクチンを接種した鶏から隔離されたインフルエンザ・ウィルスのなかに「大きな抗原性の差違」が発見されてきたことを明らかにした。これは感染した鶏がますます多くのウィルスを発し、感染を一層急速に広げるようになることを意味する。アジアのH5N1ウィルスでも同様な方法で進化が起きるだろう。中国のワクチン接種プログラムが過去2年間にウィルスの遺伝的多様性を高め、恐らく現在の株の出現に貢献したのではないかという推測も既に現われている。

 しかし、「静かな感染」を発見し、排除することができれば、ワクチンを接種された群から野生ウィルスを排除することはできる。そのための「ローテク」的方法としては、ワクチンを接種された群の隣に未接種の鳥を置く方法がある。インフルエンザが広がれば、これらのの鳥にはっきりした症候が現れる。だが、このシステムでは、群の処分を免れようとする農民が病気の鳥を移動させることでごまかす恐れがある。

 「ハイテク」的方法としては、野生ウィルスへの異なるワンセットの抗体の生産を顕現させるマーカー・ワクチンを利用する方法がある。抗体検査により、感染した鳥とワクチンを接種された鳥を区別できる。2002年、イタリアはこの方法でインフルエンザを根絶した最初の国になった。だが、ワクチン使用には監視が不可欠で、それなしにワクチンを使用すれば、かえってウィルスの拡散を助けることになる。中国は先週、二つのマーカー・ワクチンを始めると発表したが、ワクチンを接種された無数の鶏が検査されねばならず、ウィルスを排除するためには感染した群が処分されねばならない。ワクチン接種をしているか、計画しているアジア諸国には、そのようなサーベイランスのシステムは身の丈に余る。

 食糧生産を脅かしているのは、根絶がかくも難しい動物病だけではない。だが、鳥インフルエンザ一つをとっても、安くて美味い「牛丼」が食えないなどと不平が言える「幸福」な時代は過ぎ去ろうとしているのではないかと予感される。

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