農業情報研究所の鳥インフルエンザ関係記事、根拠不明な「提灯持ち御用記事」ではない

 

 農業情報研究所(WAPIC)

 

05.7.25

 

 「笹山登生の掲示板」(http://www.sasayama.or.jp/saboard/b_board.cgi)で鳥インフルエンザへの対応に関する論争が続いている。そのなかで、「とき」氏は、ワクチン利用に否定的で、発生の際の「殺処分」を強く批判する論調を展開している。筆者は、鳥インフルエンザに対抗する最善の手段がいかなるものかに関しては、理論的にも経験的にも、決定的な一般的結論が出せる段階にはなく、そのような結論が近々出せるとも考えていない。したがって、筆者はこのような「絶対的」結論を求める論争に今かかわるつもりはない。

 

 ただ、この論争のなかで、「とき」氏は、ワクチン利用がウィルスの変異を加速するという米国農務省のDavid Suarez等の研究チームの研究に関するNewScientist.comの記事を紹介する当研究所の記事(鳥インフルエンザ・ワクチンがウィルスの進化を加速―新研究、04.3.26:http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/earth/epidemic/04032601.htm)について、

 

 「ウイルス学を含めた科学論文ではなくて、また、科学専門記者によるものでもなく、一般記者の伝聞記事のようでした。農業情報研究所さんのは、提灯持ち御用記事に見えなくもないような。引用文献論文も全く明示されていませんし、あるようにも思えません。
 非常に不正確な、いわば、日本の一般大衆紙の記事レベルに思いますので、それを根拠に論を立てることは難しいソースです。せめて、「ニュース一覧」http://www.nbi.ne.jp/news_all.html
に等しいレベルの、ワクチンを用いずにトリフルを制御する・できる方法を明示したソースをお示しいただけるとありがたいと思います」

 

 と、「中傷」に等しい発言をしておられるので、他の問題のために割くべき貴重な時間を削って、本来無用なこのような記事を書かざるをえなくなった。

 

  農業情報研究所の記事は、これがNewScientist.comの”Bird flu vaccination could lead to new strains;http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn4810”と題する記事に基づくものであることを明示、この記事に直接アクセスできるようにしてある(当研究所は、よほど事情がないかぎり、「ソース」は必ず明示するようにしている)。この記事を書かれたDebora MacKenzie氏が「科学専門記者」であるかどうかは知らないが、今までに書かれた多数の記事が科学関係のものであることははっきりしており、「一般記者」と断言する根拠はない(GoogleでもYahoo!でもよい。Debora MacKenzieの名前で検索すれば、数え切れないほどの科学記事を書いていることは明白であり、そのなかにはBSEも含めた感染症に関する多くの記事も見られる)。

 

 この記事は、それがウィルス学の専門誌・”Journal of Virology”に近々発表される報告に基づくものであることも明示しており、このことは当研究所の記事でも明記してある。当時は未だ公表されていなかったから、この報告そのものへの直接のアクセスはできなかった。現在は、この報告に直接アクセスすることもできる(David L. Suarez et al.,Effect of Vaccine Use in the Evolution of Mexican Lineage H5N2 Avian Influenza Virus,Journal of Virology, August 2004, p. 8372-8381, Vol. 78, No. 15;abstract)。

 

 自説に不利な記事であるからといって、価値を貶めようと、事実を曲げたこのような発言(しかも「とき」などという偽名で)まで行うことは許されない。この記事を読まれた方は、それが「提灯持ち御用記事」でないことも直ちに了解されよう。筆者は、「提灯持ち」をするような利害関係者は一切持たない。ただ、鳥インフルエンザに関しては、現在のような工業的大規模養鶏が続くかぎり、ワクチン 接種も、と殺処分も、鳥インフルエンザが提起する問題を解決する決め手にはならないだろうとは感じている。しかし、このことを取り上げる人は極めて少数派だ。