インドネシア 鳥インフルエンザ死者は鳥の糞で感染の可能性と発表 豚からの感染説も

農業情報研究所(WAPIC)

05.7.27

 先日、インドネシアで初めてH5N1型鳥インフルエンザによる死が確認されたことを伝えたが(インドネシア 人間初の鳥インフルエンザ死を確認,07.7.20)、インドネシア政府が怖れられていた人から人への感染を否定、死亡した家族3人は感染した鳥の糞に含まれるウィルスによって感染した可能性があると発表した。26日付けのジャカルタ・ポスト紙の報道によると、シティ保健相が、省で行われた最新の現場検査の結果、H5N1ウィルスを含む鳥の糞が発見されたと発表した。死亡した父親がどこで感染したかはなお不明だが、鶏を食べたことにより、または人から人への伝達を通して感染したことはありそうもないと語ったという。アントン農相も、家族が住んでいたいた近隣でこのウィルスを含む糞を発見したと確認した。ただし、彼は糞が感染源であったかどうかは決定できないとも語ったという。(Iwan and daughters infected by bird: Minister,The Jakarta Post,7.26)。

 気がかりなのは、同紙が、彼が住んでいたLegok地区では、政府が24日、ウィルス陽性が確認された数十(または多数、dozens)の豚とアヒルを殺処分しており、感染した豚のウィルスに感染した恐れもあると報じていることだ。豚は鳥インフルエンザウィルスと人インフルエンザウィルスの遺伝子を交換、ウイルスを人から人への感染能力をもつように容易に変異させると考えられている。3人を殺したウィルスがそのような変異株なのかどうかにはついては言及がないが、分析は進んでいるのだろうかと気にかかる。

 それにしても、他の国と同様、インドネシアもこの高病原性鳥インフルエンザの封じ込めには手を焼いているようだ。昨年来、大量のワクチン接種を併用する封じ込め作戦を展開しているにもかかわらず、豚を含めた動物の間でのこの病気の拡散は一向に抑制されている様子がない。この記事も、鳥インフルエンザに感染した鶏・1200羽が殺処分されたこと、この処分を行った当局者が、アヒルや野鳥も感染しているからウィルス拡散を止めるのは難しいと語ったことを伝えている。南スマトラでも、鳥インフルエンザに感染した疑いのある鶏を今週末に処分する計画があるという。

 昨年に続き、今年も鳥インフルエンザの大量発生は続いている。今年1月から3月までの間に、中部ジャワ、南スラウェシ、西ジャワで、高病原性ウィルスが28万1730羽の鳥を殺した。感染地域には、H5N1に対抗するためのワクチンが配られた。家禽の移動禁止措置も取られた(FAO,Update on the Avian Influenza situation:12/4/2005,No.29;http://www.fao.org/ag/againfo/subjects/documents/ai/AVIbull029a.pdf)。それでも、4月末には、東カリマンタンで30羽の鶏の鳥インフルエンザ死が出た(Bird flu may spread in Samarinda,The Jakarta Post,4.30)。5月には、3月にH5N1ウィルス感染が確認された南スラウェシで再発した。これを受け、政府は人間の感染のサーベイランスを強化した(Government on alert over possible human avian flu,The Jakarta Post,5.13)。また、ランプーンでも新たなケースが発見され、感染は14州に広がった。

 ときを同じくして、豚の鳥インフルエンザ感染が見つかった。東ジャワの大学研究者がスラバヤの豚の血液サンプルなどにH5N1ウィルスを発見、日本の東京大学で分析した結果、家禽の鳥インフルエンザウィルスと類似しており、高病原性のものであることが確認された。分離されたウィルスの赤血球凝集素遺伝子の98%がインドネシアの感染鶏・ウズラから採取されたサンプルと同一だったという(FAO,Update on the Avian Influenza situation:12/5/2005,No.30;http://www.fao.org/ag/againfo/subjects/documents/ai/AVIbull030.pdf)。これを受けて農業省が行ったいくつかの州の豚の検査では、5月16日までに西ジャワの一地域で陽性の結果が出た(FAO,Update on the Avian Influenza situation:12/5/2005,No.30;http://www.fao.org/ag/againfo/subjects/documents/ai/AVIbull031.pdf)。

 そして、6月には、南スラウェイシで、ついに初めての人間の感染が確認された(Govt confirms human avian flu case,Jakarta Post,6.17)。この労働者にはH5N1ウィルス感染の症候はなかったといわれるが、7月に入ると、先の家族3人の死が確認されることになったわけだ。そして、家族3人が住んでいた地域の豚の感染も発見された。H5N1ウィルス退治に手を焼く間に、このウィルスは鳥から豚に移っていた。それが人間に対してもつ意味は?インドネシアの家族3人の感染源の解明が待たれる。