EU 鳥インフルエンザ対策強化で合意 家禽屋外飼育禁止は現在のリスクと”不釣合い”

農業情報研究所(WAPIC)

05.8.29

 欧州委員会が25日、アジアとロシアにおける鳥インフルエンザの状況とこの病気のEUへの拡散への警戒を強めるために取られるべき手段を論議する全加盟国からの獣医専門家の会合(食品チェーン及び動物保健に関する常設委員会)を開いた。この会合で、輸入禁止などの既存措置の十全な執行を確保するための非常時対策の見直しや警戒の強化を含む多くの対策が合意された。しかし、オランダが実施し、ドイツも計画しているような家禽屋外飼育の全面禁止は、渡り鳥を通しての病気の侵入の現在のリスクとは釣り合わないとみなされた。

 会合の結論は次のとおりである(http://europa.eu.int/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/05/285&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en

 1.アジアとロシアにおける病気の状況とEUにとってのリスク

 中国の青海湖における野鳥の大量死に続くロシアとカザフスタンでの家禽と野鳥の病気の勃発は深刻な懸念の原因をなす。しかし、疫学的状況は完全には明らかでなく、アジア中央部・西部の一定の地域における病気のさらなる広がりがどの程度まで野鳥により引き起こされたのかの理解を許さない。EU、関係第三国の専門家、国際機関の緊密な協力がもたらすさらなる情報が必要である。

 専門家グループは、アジア中央部・西部の関係国から野鳥、特に水鳥を通して病気がEUに拡散する可能性を討議した。

 それは、これら地域に発し、H5N1・鳥インフルエンザウィルスのEUへの拡散をもたらしうる鳥の種類の渡りのルートに関する既存の知見を考慮、これらの鳥を通しての鳥インフルエンザ侵入の直近のリスクはありそうもないか、低い(これはEUの地域の違いによる)とみなす。それにもかかわらず、このありうるリスクを最小限に抑えるために、以下に掲げる多くの対策を取るのが適切と思う。加盟国と欧州委員会は、欧州食品安全機関(EFSA)の関与を得て、上記の評価が更新され、適切に改善されるように、状況の検討を継続すべきである。

 2.サーベイランス

 専門家グループは、EUが2003年に飼育及び野生の鳥の濃密なサーベイランスを初めて開始したことを強調した。専門家グループは、そのときに加盟国が設け、それ以来調整してきたサーベイランス措置を吟味した。

 それは、すべての加盟国が、病気の侵入リスクをもたらす渡り鳥の飛路に沿った渡り水鳥のサンプリングの増加により、2005/06年について計画されているサーベイランス計画を緊急に見直し、強化することが適切と考える。加盟国は、欧州委員会の調整の下でこれに関する協力を改善すべきである。

 3.バイオセキュリティーと他の病気の予防・抑制措置の強化

 専門家グループは、すべての加盟国が、鳥インフルエンザが発生したならば、家禽の群にそれを発見し、根絶することを確保するためのEU法が要求する措置を設けてきたことに注意した。勃発の程度を制限するための中心的要素は早期発見と迅速な行動である。欧州委員会は、この分野におけるEU立法をさらに発展させるために提案を行い、加盟国と討議している()。

 専門家グループは、アジア中央部・西部の関係地域における最近の勃発に続いていくつかの加盟国が実施し、または予告した予防措置に注目した。

 家禽の屋外飼育の一般的禁止を実施することは、ロシア(シベリア)を含むアジアからの病気侵入の現在のリスクに不釣合いと考える。しかし、農場レベルでのバイオセキュリティー措置がすべての加盟国で見直され、地方レベルで実施されるケース・バイ・ケースのリスク評価に基づいて必要なときには、それらがいつでも強化される必要性がある。この評価は、とりわけ、水鳥の渡りのルートと、これらの鳥を家禽との緊密な接触に導く可能性のあるいかなる状況(例えば池の存在など)の発生を考慮すべきである。リスクに曝された状況では、リスク軽減措置として、ワクチン接種も考えられる。

 専門家グループは、加盟国が次のことをなすべきことも勧告した。

 ・農業者に対してバイオセキュリティー措置をさらに改善することを奨励し、鳥インフルエンザが発生したならば早期発見を助ける追加的啓発計画を導入すること。これらには、例えばリーフレットや報道を通しての鳥インフルエンザに関する一般に理解可能な情報の配布も含みうる。

 ・鳥インフルエンザが疑われるか確認された場合に即座に適用されるべき国家措置を特定するEU立法に従って各加盟国が取る既存の非常事態対応措置の見直しと、必要ならば改訂。この関連で、感染リスクに曝される家禽労働者に適切な保護を提供する必要性が十全に考慮されるべきである。

 ・商業的積送品、旅行者の手荷物、その他のすべての方法での鳥(とくに観賞用の鳥などの家禽以外の鳥も含む)やその製品の持ち込みに関するEU国境での既存の措置と管理の適用を通して、EU立法で確立された要件を満たす商品だけが輸入されるように確保すること。

 4.消費者へのコミュニケーション

 専門家グループは、消費者サイドの信頼が失われるのを防ぐために、家禽製品に関する適切で信頼できる情報が消費者に提供されるべきと考える。

 それにつけても、日本の対策はどうなっているのだろう。少しばかり北海道で過ごしてきたが、寄ってくる水鳥たちに思わず元気でいろよと声をかけた。今年の冬も元気でいてもらいたいものだ。放し飼いの鶏たちの幸せを否応なくぶち壊さないためにも。

 (注)この提案は、今年4月28日に欧州委員会が採択したもので、病気の拡散の仕方や人間にとってのリスクに関する最近の知見に基づいて既存のEU措置を改善することを目的としている。鳥インフルエンザのコントロールに関する既存のEU立法(Council Directive 92/40/EEC)は、”高病原性”鳥インフルエンザのコントロール措置を定めるものであるが、いまや、これらのウィルスがウィルスの変異の結果として”低病原性”ウィルスに由来する証拠が存在する。そのために、新立法は、野鳥から家禽に伝達しうる”低病原性”ウィルスに対する強制サーベイランス・コントロール措置を確立しようとしている。野鳥がもつ”低病原性”ウィルスは根絶不可能だが、家禽の感染は有効にコントロールできるし、”高病原性”へのウィルス変異も抑制できるという考えに基づく。新立法の目的は、鳥インフルエンザに対する最も適切なサーベイランス・予防措置を設けるとともに、勃発に際しての健康リスク、経済的コスト、社会的影響を最小限にすることにある。今後閣僚理事会で採択、2007年1月までに完全実施することを目指している。

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