鳥インフルエンザ 中国が全家禽にワクチン接種 ベトナムは2大都市の全家禽処分を計画

 

農業情報研究所(WAPIC)

 

05.11.16

 

  China Daily紙の報道によると、中国が140億の家禽全体に鳥インフルエンザ・ワクチンを接種することを計画、またベトナムはホーチミン市と首都・ハノイの家禽すべてを来週月曜日までに処分するという。

 

 China to vaccinate entire poultry stock,China Daily,11.16
 http://www.chinadaily.com.cn/english/doc/2005-11/16/content_494933.htm

 

 15日、中国農業部のJia Youling獣医局主任が、中国は国のすべての家禽に対するワクチン接種を進めており、政府がすべての費用を支払うと語った。ただし、ワクチン接種をどのように実行するかについての詳細は語らず、2003年以来アジアの鳥を襲い、64人の死者を出したH5N1ウィルス株に対するワクチンかどうかも明らかでないという。

 

 中国は、以前の勃発を受け、既に数百万の家禽にH5N1ウィルスに対抗するワクチンを接種してきた。しかし、これまでのところ、対象は大規模生産者の家禽に限られてきた。10月14日以来、内蒙古自治区、安徽省、湖南省、遼寧省、湖北省で鳥インフルエンザ勃発が報告され、さらに最近、新疆ウイグル自治区でも新たな勃発が確認された。人間の感染は確認されていないが、湖南省の勃発地域で10月17日に高熱を発して死亡した12歳の少女と、同様な症状を示しながら回復途上にあるという他の2人(少女の兄弟と37歳の教師)について、病因がH5N1ウィルスなのかどうかを確認するための中国・WHOの共同調査が進められている。調査はほとんど完了、今週中に結果が明らかになるという。遼寧省では、鶏に濃密に接触した婦人が肺炎を発症、専門家は病因は不明としているが、鳥インフルエンザに感染した可能性も排除されていない。

 

 このような鳥のインフルエンザ拡大とそれが人間に感染するのではないかという恐れが、中国政府の今回の計画を促したものであろう。専門家は、鳥での勃発を止めることができなければ、人間の感染も不可避だと警告している。Xinhua News Agencyによると、Jia主任は、中国が「なお、鳥インフルエンザ予防とコントロールのシステムで問題に直面している。中国には多数のバックヤードで育てられる家禽がいる。一部農民は病気にまったく注意を払っていない」と語ったという。計画は、このような家禽にもワクチン接種を拡大することを目指すものであろう。他方、原因不明の肺炎が出た遼寧省については、中国当局は鳥インフルエンザ勃発が闇ワクチンの利用によるものではないかと疑っている。このような違法行為の一掃も念頭にあるのかもしれない。

 

 ただし、家禽へのワクチン接種は、厳重な監視・管理の下で行わなければ、適切なワクチン接種がなされたとしても、なおウィルスが生存を続け、拡散さえする恐れもある。このような家禽の鳥インフルエンザが急速に変異することを恐れる一部専門家もいる。これで中国が鳥インフルエンザを封じ込めることができるかどうかは、なお不透明だ。

 

 他方、やはり鳥インフルエンザ勃発が続き、最大の死者(42人)が出ているベトナムでは、ホーチミンとハノイの農民に、来週月曜日までにすべての家禽を殺すか、売りに出すことが命じられた。これを今行えば市価の半分まで補償、期限後にも生きているのが発見されれば補償はないという。ホーチミン市の動物衛生局長・Huynh Hu Loi,氏は、「我々は市内の生きた家禽の一掃は人間が鳥インフルエンザに感染する機会を最小限にすると期待する」、「パンデミックはいつでも起こり得る。我々はできることはすべて行う」と語ったという。

 

 このような極端な行動に走らせたのは、ベトナムのH5N1ウィルス株が既に急速に変異しているというパスツール研究所の最近の報告であろう(べトナム・パスツール研究所 鳥インフルエンザH5N1ウィルスの危険な変異を発見)。ホーチミン市のパスツール研究所は、2003年12月から2005年3月までに家禽と人間から分離された24のH5N1ウィルスが重大な変異を示していることを明らかにした。

 

 Cao Bao Van所長によると、3月に人間から分離されたウィルスのPB2遺伝子に、哺乳動物の細胞で効率的に増殖することを可能にする変異が認められた。この変異は、この蛋白質の627番目のアミノ酸を鳥インフルエンザのグルタミン酸から人間のインフルエンザに典型的なリジンに変える。この変化は、ウィルスが人間の呼吸管で増殖することを可能にする。これは、ウィルスが人間や哺乳動物に感染するなかで、哺乳動物に適応しつつあることを示す。これは鳥インフルエンザ・ウィルスが人間に適応し、大量の死者を出した1918年のスペイン風邪のウィルスで見られた特徴でもあった。

 

 H5N1鳥インフルエンザを起源とする新型インフルエンザの”パンデミック”が迫っている確証はないが、「パンデミックはいつでも起こり得る。我々はできることはすべて行う」という対応が必要なときかもしれない。

 

 参考
  Bird flu mutation more resistant,smh.com,11.14
  http://www.smh.com.au/text/articles/2005/11/13/1131816809180.html

  China to vaccinate all poultry against bird flu,NewScientist.com,11.15
    http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn8325
    Xinjiang reports bird flu cases,xinhua.net,11.16
    http://news.xinhuanet.com/english/2005-11/16/content_3786087.htm