世界の科学者 H5N1ウィルス拡散における野鳥の役割を確認 監視強化を勧告、野鳥狩りは拒否

農業情報研究所(WAPIC)

06.6.3

  国連食糧農業機関(FAO)と国際獣疫事務局(OIE)の共催で開かれた先月末2日間のローマの会合で、300人を越える科学者が高病原性鳥インフルエンザ(HAPI)の拡散における野鳥の役割を検討した。FAOの報道発表によると、参加者は、高病原性鳥インフルエンザウィルスの遠距離拡散で野生の渡り鳥が役割を演じたし、今後も演じ続ける可能性が高いことを確認した。しかし、三つの大陸の50以上の国へのHPAIの拡散において野鳥がどんな役割を演じたのか、野鳥がウィルスの恒久的宿主と考えられるのかどうかという基本的問題には答えられないことを認めた。ウィルスは主に合法・非合法の家禽貿易を通して拡散したことも認めたという。

  FAO:Wild birds’ role in HPAI crisis confirmed,06.6.1
  http://www.fao.org/newsroom/en/news/2006/1000312/index.html

 会合は、アフリカの8ヵ国でのH5N1鳥インフルエンザの現在の勃発が家禽に関連しており、主に違法貿易を含む人間の消費のための家禽貿易に拠るものらしいとした。しかし、どのようにしてウィルスが侵入したか、完全な理解のためにさらなる分析を要請したという。

 他方、野鳥がウィルスの恒久的宿主であるとすれば、次期の移動でウィルスを運ぶ可能性が高い。そうではなく、感染した野鳥が死に絶えるか、ウィルスがより毒性の低い型に変異すれば、H5N1ウィルスは自然に沈静するだろう。しかし、FAOのJoseph Domenech獣医官主任は、「これは我々の現在の科学的知識に認められる主要な空白部分の一つだ。従って調査研究を強化しなければならない」と語ったという。

 ウィルス拡散における野鳥の役割に関するこのような科学的不確実性は残る。それにもかかわらず(あるいはそうであるために、と言うべきか)、会合は、科学研究機関、農民組織、ハンター、バードウォッチャー、湿地及び野生動物保護団体など、世界中の関連機関が参加するグローバルな[野鳥]追跡・監視機関の設立を要請した。

 H5N1ウィルスの管理は、家禽と野鳥の接触の可能性の最小限化を含む生産レベルでの、またすべての家禽部門でのバイオセキュリティーと衛生の改善に基づく必要があると勧告する。OIE科学技術部長のGideon K. Brücknerは、途上国、特にアフリカとアジアでの獣医サービスの改善投資のために国際的援助を動員する必要がある、このような賢明な投資が野鳥における鳥インフルエンザ勃発の早期発見と勃発への迅速な対応を促進すると言う。

 ただし、参加者は野鳥を殺すことによってHPAIの拡散を止めようとするいかなる試みも拒否した。会合の勧告の一つは、「野鳥生息地の破壊、あるいは野生動物の無差別狩猟は、対応として科学的にも、倫理的にも正当化されない」と述べる。

 New Scientist誌によると、米国研究者がインフルエンザのような病気を持つ野生動物を殺すことは一層の感染を招き、感染動物を減らすことにはつながらないという研究を発表した。

 Wild birds 'partly' to blame for bird flu spread,NewScientist..com,5.31
  http://www.newscientist.com/article/dn9251-wild-birds-partly-to-blame-for-bird-flu-spread.html

 多くの野生種は生き残ることができる以上の多くの子を産む。ハンターは大きく、高齢の動物を狙うことが多いから、狩猟は、さもなければこれらの若い動物と競争することになる動物を除去することになる。その結果、狩猟を受けた動物集団では、比較的多くの若い動物が生き残り、狩猟のための損失を埋め合わせる。高齢の動物は免疫をつけているから、インフルエンザのような病気にはウィルスが変異することによってのみ罹ることになるが、若い動物は免疫がないから、常に罹りやすい。実際、野生の水鳥の間では、インフルエンザは若い鳥が存在する繁殖シーズンの末期に最も多く発生する。

 研究者は、数学的モデルにより、狩猟による若い動物の比率の増加がインフルエンザのような病気のケースを実際に増加させることを示した。病気が動物を殺すときには狩猟による死に病気による死が加わり、種の存続を脅かす可能性がある。しかし、水面ガモのようにH5N1に感染した一部の野鳥で見られるように、動物が病気で死なない場合には、他の動物に移すことができる保菌者の数が増えることになる。

 一部の国は、鳥インフルエンザ拡散を防ぐために大規模な野鳥退治を試みてきた。それは逆効果を生み出しただけかもしれない。

 関連情報
 渡り鳥はアフリカに鳥インフルエンザウィルスを運ばなかったー専門家が結論,06.5.11