畜産における抗生剤大量使用でヨーロッパ諸国に新種MRSA 英国土壌協会の新研究

農業情報研究所(WAPIC)

07.5.26

  英国有機農業団体・土壌協会(Soil Association)が6月25日に発表した新たな研究報告が、オランダをはじめ、デンマーク、ベルギー、ドイツなどヨーロッパ大陸諸国に家畜に発する新種MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、バイコマイシン以外のすべての抗生物質が効かないとされる)が広範に広がっていることを明らかにした。

 MRSA in farm anmals and meat:A new threat to human health,Soil Association
  Summary

 昨年、オランダの9つの屠畜場に出された豚の39%からこのMRSAが発見された。子牛の13%からも発見された。このMRSAは既にオランダの農民・農場労働者・一般家族にも移転している。とりわけオランダ養豚農民の50%がこのMRSAの保菌者となっており、この保菌率は一般人の1500倍にもなる。一養豚地域では、すべてのMRSA感染の80%が農場動物株により引き起こされている。さらに、オランダ食品・消費者製品安全当局の昨年の調査によると、一般に販売されている豚肉の20%、鶏肉の21%、牛肉の3%からもこのMRSAが発見されたという。

 この新種MRSAが、特に養豚や養鶏における大量の抗生物質の使用から生まれたことは明らかなようだ。同時に発せられた土壌協会のプレス・リリースによると、オランダの科学者や政府は、この農場動物の新種MRSAは、”集約畜産”で使用される大量の抗生物質のせいだとしている。

 土壌協会は、これがイギリスにも広がるのを恐れる。プレス・リリースによると、イギリスの家畜や肉には未だ発見されていないが、政府も、食品基準庁(FSA)も生きた豚・鶏・輸入肉の調査をまったくしていない。担当相は議会で、イギリスで食品生産動物がMRSA保有宿主となっている証拠はないと答弁したが、オランダ農相の見方は違う。彼は、”MRSAが発見される動物のタイプや多数の動物の移動、EU各国における家畜飼育方法の類似性を考えると、「畜産関連MRSA」がオランダだけに存在するということはありそうもない。・・・だから、すべてのEU加盟国がそれぞれの家畜を調べることが重要だ”と語ったという。

 土壌協会によれば、成長促進抗生物質の動物飼料添加はEU規模で禁止されているものの(EU:飼料添加物規則成立、成長促進抗生剤全廃へ,03.7.24)、獣医は病気予防の名目で同量の抗生物質を処方している。さらに、担当相は、動物薬品産業の圧力活動を受け、EU指令をものともせず、獣医の処方がなければ買えない抗生物質の畜産農民向け広告の継続を許している。いまやこのような重要な抗生物質が成長促進剤として販売されてさえいるという。

 土壌協会は、イギリスの家畜や肉の調査、畜産における抗生物質使用削減の政府約束の完全実施、世界保健機関(WHO)により人間の健康のために”決定的に重要”と分類された抗生物質の農場での予防的使用の即時禁止、家畜にMRSAが発見された国からイギリスにやって来るすべての農場労働者や獣医の検査を要求する。

 FSAは、この報告は受け取ったばかりで、これから詳細に検討すると言うが、まともに取り合うつもりはなさそうだ。

 新種MRSAはイギリスの食料生産動物には発見されてないとした上で、どんなMRSAも適切な調理で死ぬ、”下のリンク”で、食品、特に肉の安全な扱いと調理に関するガイダンスが利用できると言うだけだ。

 Agency response to MRSA report,FSA,6.25