農業情報研究所環境感染症2016年12月3日

鳥インフルエンザ蔓延の兆し 野生動物の鶏舎侵入防止策にも大穴 「一度発生したら終わり」

 今年は家禽の鳥インフルエンザが世界中で猛威をふるっている。わが国でも蔓延の兆しが見えてきた。

  これまでのところ、家禽に関しては新潟県関川村の31万羽採卵養鶏場、同県上越市の23万羽採卵養鶏場、青森市の18000余羽の食用アヒル農場でH 5型高病原性鳥インフルエンザが確認されただけだが、家禽の有力感染源とされる野鳥の感染例は、北見市(オオハクチョウ)、苫小牧(ハヤブサ)、青森市(オオハクチョウ、ノスリ)、秋田市(コクチョウ、シロクフロウ)、登米市(マガン)、福島市(ハクチョウ)、水戸市(ハクチョウ)、阿賀野市(ハクチョウ)、兵庫県小野市、米子市(コハクチョウ)、鹿児島県出水市(ナベヅル、ヒドリガモ)と全国に広がっている(123日現在)。

 こうした事態を受け、農水省は「家禽飼養者の皆様」に対し、「野鳥などの野生動物の家きん舎への侵入を防止することができる防鳥ネットなどの設置とその破損(箇所の修繕)、家きん舎の壁面の破損や、家きん舎の屋根と壁の隙間など、小型の野生動物が家きん舎の外部から侵入しうる経路がないか、家きん舎の内部及び外部から改めて詳細に緊急点検して下さい。十分でない場合には修繕などを行って下さい」と、万全の「野鳥、ねずみなどの野生動物対策」を要請した(http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/attach/pdf/index-14.pdf)。

  ただし、これで野生動物から感染を本当に防げるのかどうか、はなはだ心もとない。

  例えばオオハクチョウから鳥インフルエンザウイルスの陽性反応が検出された水戸市大塚池近くの養鶏農家、「渡り鳥が飛来するこの時季、鶏舎を防鳥ネットなどで覆ったり、周辺に石灰を散布したりするなどして、ウイルスが鶏舎に入り込まないよう防疫対策に取り組んでいる」が、「それでも小動物やスズメなどの(鶏舎への)侵入を100%防げるわけではない。一度発生したら終わりだ」と危機感を募らせている(鳥インフル 募る不安「やはり…」 感染経路、特定難しく 茨城新聞 16.12.3)。

 スズメどころではない。もう10年以上も昔の話だが、インドネシアの研究者は、猫、犬、そしてハエさえもウィルスを運ぶ、「例えば、我々がここで行っている一つの研究は、ハエが鳥インフルエンザ・ウィルスを拡散させる可能性を確認した」と言っている。国の様々な地域から集めたハエについての研究で、鳥インフルエンザウィルスがハエの消化・呼吸管だけでなく、卵も含むその他の組織にも発見されたという(インドネシア研究者 ハエさえも鳥インフルエンザを運ぶ ウィルスを最低25世代継承 農業情報研究所07,1.25)。ウィルスに感染したハエの卵の侵入など、野鳥やネズミなど小動物との接触を回避するためにいかに鶏舎を密閉したとしても防げるはずがない。水戸市養鶏農家が言う通り、「一度発生したら終わりだ」。

 人が見れば密閉された鶏舎も、自然から見ればも穴だらけだ。自然は人為をせせら笑っている。

 ちなみに、このインドネシア研究者は、「コミュニティーを健康的な生活方法、適正な農業方法、動物を近隣で飼う正しい方法に導くプログラム」を通しての良好なバイオセキュリティーの社会化が鳥インフルエンザ勃発に対処するずっと有効な方法だと言っている。密閉鶏舎で何十万の鶏を飼う今流の養鶏をやめないかぎり、鳥インフルエンザの脅威から解放されることはないだろう。

 関連情報

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  鳥インフルエンザ、大規模・集中養鶏の構造再編が必要―FAO声明 農業情報研究所 04.1.31